言葉にしなくても伝わる気持ち
僕が治療を受けていると、座席の下からぱかおが顔を出した。
きっと、元依頼人たちに姿を見られないように隠れてたんだろうね。
彼らは今、ここから少し離れたヘリ後方の部屋に収容されている。
縄で縛られてる上に蒼一朗さんが見張ってるから、逃げることはできない。
この空間を安全だと判断して、隠れるのをやめたのかな。
いつもの僕だったら、後ずさってぱかおから離れてたと思う。
長く一緒に暮らしていても、僕の動物嫌いは治ってないから。
……でも、今の僕にはそんな元気すらないんだよね。
いつもみたいな反応をしない僕に、ぱかおは静かに寄り添った。
まだ手当てをうけていない傷口から滲んだ血が、彼の毛を赤く染める。
「……自慢の毛が台無しになるから、離れた方がいいんじゃないかな」
僕の言葉を聞いても、ぱかおは離れようとしない。
その間にも、銀色の毛はどんどん血を吸っていく。
「……もしかして、心配してくれてるのかい?」
僕がそう言うと、ぱかおは優しく体を擦り付けてきた。
心くんがいないから、本当は彼が何を言ってるのかはわからない。
でも、それでもちゃんと気持ちは伝わるものなんだなぁ。
そう思うと、自然とお礼の言葉が口をついて出ていたよ。
「……ぱかお、ありがとう。とても助かったよ」
僕は痛みで思い通りにならない腕をなんとか動かすと、彼の毛を撫でた。
……実は、ぱかおの毛を撫でるのはこれが初めてなんだよね。
(すごい……。こんなに柔らかいんだ……)
毛布よりもふわふわとしていて、とても気持ちがいい。
窓の外から差し込む日差しは、とても暖かいし……。
初体験のぱかおの毛は、想像以上に極上の手触りだし……。
この二つを感じながら、僕は自分の瞼が重くなっていくのを感じるんだ――――――――――。