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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十四話
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絶対に口に出してやらない。

 ヘリに運び込まれた僕は、早速春原さんから治療を受けているよ。

 ……これが想像以上に辛いなんて、思ってみなかったよね。


「いたっ、いたたたたっ! 春原さん、もっと沁みない薬ないんですか?」

「……傷が沁みるのは薬が効いている証拠だ。我慢して」

「はあ。春原さんの薬って、よく効くけど人に優しくないですよねぇ。飲み薬はすごく苦いですし、傷薬も市販の物よりもかなり沁みますし」

「……別に、危険な成分は入ってないけど」

「そんなこと言ってないじゃないですか。薬が優しくない代わりに、春原さんが優しくしてくださいよ。春原さんは医者で、僕は患者でしょう?」

「……こんな怪我してても口が減らないのは素直にすごいと思うよ」

「ふふふ、どうも。……あ、いたたたたっ!」


 ……本当は、喋りたくて喋ってるわけじゃないんだよね。

 体中が痛くて痛くて、こうでもしないと我慢できそうにないんだ。

 さっきまで痛みを感じなかったのは、アドレナリンのせいだったみたい。

 ヘリに戻って緊張感が解けると、急に疲労と激痛が襲ってきたよ。

 僕は適当なことを話しながら、手当てを施す春原さんを見ていた。


(……この人が僕の前であんなに焦った顔をしたのは、年末以来だ)


 僕の怪我を見た瞬間、春原さんの顔には明らかな焦燥が浮かんでいた。

 年末の爆発騒ぎで地図を欲しがった時と、同じような表情だったんだよね。

 この人の感情をここまで揺さぶることになるなんて思わなかったなぁ。

 ……自分で思うよりもずっと、僕たちは“仲間”なのかもしれない。

 それはきっと、春原さんにとっても同じなんだろうとなんとなく感じる。


(まあ、こんなこと口が裂けても言わないんだけどね)


 口を閉じると、僕たちの間にはなんとも言えない微妙な空気が流れる。

 険悪ってほどじゃないけど、ちょっと気まずいって言うのかな。

 春原さんはさっきまでと変わらず、忙しそうに手を動かしてるけどさ。


(うん。やっぱり僕たちはこれくらいの距離感がいいんだよ)


 “仲間”だって思ってることなんか、絶対に口に出してやらない。

 春原さんから言ってくることがあったら、僕も考えてあげてもいいかな。

 そんなことを思いながら、僕は大人しく治療を受けるのだった――――――――――。

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