特別扱いじゃなくて怪我人扱いだから
透花さんの行動に驚いた僕は、声を出すことすらできなかった。
だって、彼女は基本的にこういう“特別扱い”はしないんだもの。
透花さんは優しいけど、むやみに身体的接触を図ったりはしない。
心くんと颯くんの少年組はともかく、それ以外の成人組は特にね。
二人きりの時は、若干雰囲気が緩んでるなぁって感じることはあるけどさ。
だから、他の人の目がある場所で抱き締められたことが意外だったんだ。
「……透花さん、どうしたの? あなたはこういう特別扱いはしないでしょ」
「……特別扱いじゃなくて、怪我人扱いだからいいんです」
「ふふっ、あなたらしいなあ。そんなに心配だった?」
「……当たり前だよ。GPS反応がある場所には、眼鏡と血痕が残されているだけで湊人くんがいないんだから。間に合わなかったらどうしようって思った」
「間に合ったんだからいいじゃない。それにしても、よくここがわかったね」
「それは、ぱかおのおかげだよ。眼鏡から湊人くんの匂いを辿ってもらったの」
「へえ、彼まで来てるの。随分大所帯じゃない」
「私たちも、離陸してからぱかおが座席の下にいることに気付いたんだよ。今日は天気もいいし、偶然そこをお昼寝の場所に選んでいたんじゃないかな」
「僕はその偶然に助けられたわけだ。お礼を言いたいんだけど、姿が見えないね」
「ぱかおには、理玖と一緒にヘリで待ってもらっているんだ。他にも仲間がいて、ヘリを襲撃されたら困るから。戦闘員じゃない理玖を危険に晒すのも避けたかったし。理玖は戦えないけど、ぱかおは大きくなればとても強いからね」
「ふふ、春原さんがぱかおにお守りをされてるってことだよね」
「うん、そうなるかな。怪我をしているのに長話をしてしまってごめんね。早くヘリに戻って、理玖に治療をしてもらおう。湊人くん、立てる? 私が支えるよ」
話をしている間に、僕たちの間に流れる空気はいつものものに戻っていたよ。
透花さんは僕から体を離して立ち上がると、片手を差し出してくれる。
正直、人の手を借りなきゃ歩けないほどの痛みじゃないけど。
……ここは、素直にこの人の優しさに甘えておこうかな。
というか、ちょっとだけ彼女に甘えたい気分かも。
「ありがとう。お言葉に甘えるよ」
そう言うと僕は、彼女の柔らかい手に力をかけた。
「……あれ。困ったな。全然立ち上がれないんだけど」
そこで、あることに気付いてしまった。
自分では大丈夫だと思ってたけど、僕の体は限界まできてるみたい。
透花さんの手を借りても、立ち上がることが出来なかったんだ。
これじゃあ、彼女に支えてもらっても歩けそうにないなぁ……。