そんな悲しそうな顔をしないでよ
透花さんの視線は、男たちではなく僕に向けられていた。
こんなにボロボロになった僕を見て、あなたは何を思うんだろう。
体中の痛みで思考も鈍ってるし、眼鏡がないせいで視界もぼやけてる。
そんな僕にでも、一つだけわかることがあるよ。
……彼女は今、見たことがないくらい怒ってるってことがさ。
「……柊平さん、蒼一朗さん。彼らを捕えてもらえるかな」
「かしこまりました」
「うし、任せとけ」
透花さんの合図で、久保寺さんと蒼一朗さんが小屋に入ってくる。
元依頼人の男は、僕について調べたって言ってたよね。
じゃあ、透花さんが隊長で、他の二人が同僚だってわかるはずだ。
そんなみんなの突然の襲来に、男たちはとても驚いてる。
二人の働きで、あっという間に全員が捕まっちゃったんだからさ。
知ってはいたけど、改めて見るとこの二人って本当に強いなぁ。
「どうして一色透花がここに……!?」
「何かあったら駆け付けられる位置にいましたから」
「ちゃんと周囲を確認したが、お前たちはこの町には潜んでいなかった……!」
「ええ、その通りです。私たちは、数百キロ離れた地域で待機していました」
「それなのに、どうしてこんなに早く来れたんだ……!? ここは他の場所から隔離された田舎町だ! 隣の町から来るだけで、数時間はかかるだろう!?」
「言葉通り、空を飛んできたんですよ」
透花さんはそう言うと、人差し指を上に向けた。
大方、柊平さんのヘリに乗って来たんだろう。
僕は今回の件で、透花さんにあるお願いをしていた。
それは、こいつらをおびき寄せるために単身で行動させてほしいってこと。
このお願いを聞いてくれる代わりに、一つの条件を出されたよ。
何かあったら、すぐに駆け付けることを了承してほしいって内容だった。
僕は、最初はこれには反対したんだよ。
だって、透花さんが来てくれるってわかってたら態度が緩むでしょ?
それをこいつらに不審に思われて、逃げられるかもしれないから。
だけど、透花さんはどうしてもここだけは譲ってくれなかったんだ。
頭脳には自信があるけど、腕っぷしが弱いのはちゃんとわかってる。
だから、待機している場所について僕に知らせないことで手を打った。
そうすれば、どれくらいの時間で透花さんが来るか大体の想像しかできない。
それまでなんとか持ちこたえなきゃって、モチベーションも上がるからね。
男たちはまだ何か喚いていたけど、透花さんはもうそれを聞いていない。
僕の方へと歩いてくると、目線を合わせるようにゆっくりとしゃがみ込んだ。
「ふふっ、どうかな? 傷のおかげで、いつもより男前になったんじゃない?」
確かに傷は痛むけど、生死に関わるようなものじゃないんだ。
(そんな悲しそうな顔はしないでよ。単独行動は、僕が望んだことなんだから)
そんなことを考えながら、僕は笑顔を作って軽口を叩く。
「……遅くなってごめんなさい。湊人くんが無事で、本当によかった……!」
そう言うと透花さんは、浮かない表情のまま僕を抱き締めてくれたんだ。
その行動に驚いた僕は、しばらく声を発することができなかったよ……。