扉の先にあったのは、僕を導く光だった。
(透花さんが来てくれたんだ……!)
……そんな僕の希望は、瞬時に打ち砕かれたよ。
「あの~、すみません。どなたかいらっしゃるんですか?」
だって、扉の外から聞こえてきたのは年老いた男性の声だったから……。
僕を暴行していた音は、小屋の外にまで響いていたはずだ。
ここで誰もいないふりっていうのは、さすがにできないだろうね。
「何の用だ!?」
「おぉ、やはりどなたかいらっしゃるんですね」
「登山中にここを見つけ、休憩させてもらっている! お前は誰だ!?」
「私は、この小屋の管理人でございます。近くを通りかかったら何やら音がしましたので、声をかけさせていただきました。登山客の方でしたか」
元依頼人の男は扉を開けずに、管理人を名乗る男性と話を進めていく。
……見知らぬ人間を巻き込むわけにはいかないよね。
彼には、一刻も早くここから立ち去ってもらわないと……!
「申し訳ないのですが、中に入れていただけますか?」
「……それは、なぜだ?」
「すごい音がしましたので、小屋の安全をこの目で確かめておきたいのです」
「……必要ない! ただ休憩しているだけだ!」
「ですが、この小屋を守ることが私の仕事ですので……」
二人は、しばらく押し問答を続けていた。
管理人の男が、小屋の中を確認するまで帰らないって言い張るんだもの。
先に折れたのは、なんと元依頼人の方だったよ。
「……わかった! 今開けるから待っていろ!」
そう言うと、仲間の男たちに目配せをする。
……こいつらは、何の関係もない人間までも殺めるつもりなんだろう。
ここでこれ以上時間を使うよりも、その方が早いって考えてそうだ。
(それだけは、絶対に避けないと……!)
……自分のせいで誰かが死ぬなんて、後味が悪すぎるからね。
僕は管理人の男に、入ってきちゃダメだと言おうと思って口を開いた。
だけど、蹴られたお腹が痛んでその声は音にはならなくて……。
小屋の扉が開かれてしまう光景を、僕は呆然と見つめていたよ。
……だけど、その先にいたのは老爺なんかじゃなかった。
顔が見えなくても、その凛とした立ち姿でわかるよ。
それが、僕が待ち侘びていた人だっていうのがさ――――――――――。