情報戦で、僕に勝てると思わないでほしいなぁ。
「こんにちは。こんな場所でお会いするなんて驚きました」
本当は、話しかけられるのをずっと待ってたんだけどね。
そんなことは顔に出さずに、驚いたふりをしておくよ。
「……こんな偶然があるんですね。そちらは観光ですか?」
「はい。綺麗な空気が吸いたくなったので一人旅をしているんです」
「そうですか……。ところで、私が依頼した件の進捗はどうでしょうか?」
「ああ、ご安心ください。ちゃんと取り組んでいますよ。あと半分ほどで全ての解析が終わると思います。今回の旅行は気分転換も兼ねてるんですよ」
「………………………………」
男は、何かを探るような視線を僕に向けてくるよ。
他人にじろじろ見られるのって、正直嫌なんだけどなあ。
「どうかしましたか? 僕の顔に、何かついています?」
「……いえ。本当は、もう解析が終わっているんじゃないかと思いまして」
「まさか! 依頼人のあなたに、僕が嘘を吐く理由がないじゃないですか」
「……あなたは、とても真面目な人だ。一度依頼を引き受けたら、それが終わるまでは旅行なんて絶対にしたりしない。……違いますか?」
「僕を買い被り過ぎですよ。僕だって人間ですから、息抜きくらいします」
「……そうだとしても、このような辺鄙な田舎町は選ばないはずだ。あなたは利便性が高い場所、もしくは自分の部屋が一番好きなのだから」
「へえ! 僕のことをよく知っていますね」
「勿論です。この依頼をするにあたって、あなたについて調べましたから」
そう言うと男は、ニタリと品のない笑みを浮かべた。
おやおや、さっきまでとはまるで別人じゃないか。
(ようやく本性を出したね。さーて、ここからが本番だ)
「隠してること、全て話してもらいますよ。お前ら、出てこい!」
男の合図で、木の影から二人の屈強な男が現れる。
一人ではないと思ってたけど、手下が二人も隠れてたのか。
だけど、色々と準備してきたのが自分だけだって思わないでよね。
僕だって、ちゃんと手回しをしてきてるんだからさ。