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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十三話
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知らないところでかくれんぼ

「ほほう、これは随分といい品じゃのう」


 時計屋の主人が、僕の腕時計を一目見て発した言葉がこれだ。


「え、これ、そんなにいい物なんですか?」

「うむ。元々いい品じゃが、それに加え丁寧に手入れされておる。お前さんから、この時計への愛が伝わってくるようじゃ。よほど大切な物なんじゃろうな」

「……そうですね。長く使いたいので、手入れは欠かさないようにしてます」

「その心意気、気に入った。最近は、使い捨て感覚で時計を買う者が多くて残念に思っていたのじゃ。分解してみないと詳しいことはわからんが、特別料金で修理を請け負おうじゃないか。お安くしとくぞ」

「わあ、ありがとうございます」

「いやいや、お安い御用じゃ。実際に開けてみないとどれくらいの時間が必要かわからんのじゃが、少し解体してみても構わんかの?」

「はい、お願いします」


 店主は道具を取り出すと、僕の目の前で分解を始めた。

 こうして目に見えてると、客としても安心できるからいいよね。

 この店主の人柄のおかげで、余分な出費を抑えられそうで助かったよ。


「いい品だし、手入れも行き届いておる。そう簡単に故障することはないと思うのじゃが……。んんん、これはなんじゃ?」

「どうかしたんですか?」

「いや、中に小さな紙が入っておってな」

「紙、ですか?」

「うむ。時間が遅れるのは、恐らくこれのせいじゃろう」


 そう言うと店主は、僕にその小さな紙を渡してくれた。

 広げて見てみると、そこにはびっしりと数式が書き込まれてる。


(……まさかね。いや、そんなことあり得ないでしょ……)


 そう思いながらも、僕の目は数式に釘付けだ。

 店主曰く、時間が遅れてしまうのはこの紙のせいだったみたいだ。

 だから、これさえ取り出せばもう問題はないんだけど……。

 思いがけない発見に気をよくした僕は、そのまま店に時計を預けてきた。

 分解して掃除してもらえば、もっと長持ちするようになるみたいだからね。

 部品を一つ一つ洗浄して、劣化している部分は交換するんだって。

 その分時間もお金もかかるみたいだけど、まあ大丈夫でしょ。

 見つかったメモを握りしめながら、僕は家路を急いだよ。

 僕を尾行する足音があることになんて、全然気付かずにね――――――――――。

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