眠る
「透花さん……」
「なんだか嫌な予感がしたから、急いで任務を終えて柊平さんに飛ばしてもらったんだ」
柊平は、ほとんどの乗り物の運転免許を所持していた。
上空からは、ヘリコプターのプロペラ音が聞こえる。
どうやら透花は、そこから飛び降りてきたようだ。
「理玖も連れて来てよかった。早く診てもらおう」
「……動くな」
透花が心を背負おうとした瞬間、後頭部に何かを突き付けられたのを感じる。
「お、おい……! もうやめとけって……!」
「その女、あのヘリから飛び降りてきたんだぜ……!? 普通じゃない……!」
「……何言ってんだ。どう見ても、武装してないただの女だろうが」
どうやら彼女は、銃を突きつけられているようだ。
しかし慌てる様子もなく、静かな声で言い放つ。
「……あなたが、その銃で彼のことを傷つけたのかな」
「ああ、その通りだぜ。あんた何? こいつの仲間?」
「……そうだよ。彼を傷つけたあなたを、私は許さない」
「許さないって、この状況わかって言ってんのかよ!?」
「……状況がわかっていないのは、あなたの方でしょう」
それは、本当に一瞬の出来事だった。
透花の頭に当てていたはずの銃口が、いつの間にか男の眉間に突き付けられている。
彼女の笑顔には、いつものような温度がない。
怒っているのだ。
「……自分の置かれている状況が、少しはわかってもらえたかな?」
「なっ……!?」
他の男たちが持っていた麻酔銃も、全てが彼女の手の中に収められていた。
「……心くん、安心してね。もう大丈夫だから」
心に向けられた笑顔は、いつも通りの優しいものだ。
(透花さん、ありがとう……。この子のこと、守れてよかった……)
そしてゆっくりと瞼を閉じると、自分が抱えている温かさを感じながら意識を手放したのだった――――――――――。