とってもいい気分だよ
(わあ、すごい。ほんとに振り込まれてるよ)
男から依頼を受けた翌日、僕は銀行にいた。
通帳には、昨日まではなかった金額が記されている。
(成功したら、更にこの倍を払ってくれるんでしょ? さすがに話がうますぎるよなぁ。まあ僕も、相手の話を百パーセント鵜呑みにしてるわけじゃないけど)
昨日の男の話は、やっぱり納得のいかない点も多かった。
一番不審に思ったのは、僕の前に依頼したプログラマーたちについて。
彼らから少しでも情報を引き出せないかと思って、詳しく聞いてみたんだ。
だけど依頼人の男は、彼らの素性については一切明かさなかったんだよね。
『お伝えする必要はないと思います。彼らはプログラムを解けなかった人間です。彼らの話を聞いて、二階堂さんの仕事に支障をきたしては困りますから』
これって、おかしいと思わない?
だって、あんな大金を支払ってまで手に入れたい物があるんでしょ?
それなら、どんなに小さな情報だって大切なはずなのに。
(着手金も貰っちゃったし、とりあえず僕は自分のベストを尽くすだけだけど)
彼らの話を聞かなくても、僕がロックを解除できるかもしれないし。
前任者は無能で、何も情報が得られなかった可能性だってゼロじゃない。
(プログラムと向き合ってみてから、後のことは考えよう)
僕は通帳を鞄に仕舞うと、家までの道のりを歩き出した。
色々と考えなきゃいけないことはあるけど、気分はとてもいいよ。
だって、こんなにも懐が暖かいんだからさ。