気の遠くなるような話だよ
とある春の日、僕は透花さんの部屋を訪れていたよ。
今日は、月に一回の肩代わりしてもらった借金を返す日だからね。
僕は、封筒に入っているお金を透花さんに渡す。
「はい、これ今月の分だよ」
「湊人くん、ご苦労様。確かに受け取りました」
透花さんは中身を確認することもせずに、それを笑顔で受け取った。
え、どうして振り込みとかじゃなくて直接現金で渡すのかって?
だってその方が、ちゃんとお金を返してるって気になれるでしょ?
お金が目に見える方が好きだから、このスタイルを取らせてもらってるよ。
「はあ、全額返済までの道のりは遠いなあ」
「まあまあ、着実に減っているのだから気を落とさないで」
「老人になってもあなたに借金があるのは、ちょっと辛いよね」
「大学を卒業したら、今までよりも仕事に時間を使えるようになるでしょう? そうしたらお給料が上がって返済額も増えて、返済期間も短くなるよ」
「……そうだよね。こういうのは、地道に一歩ずつ積み重ねていかなくちゃ」
「その意気だよ。今日もこれから仕事だっけ?」
「うん。ふふふ、お金持ちの客だといいんだけどなあ」
僕がお金を得る方法は、大きく二つに分かれる。
一つは、透花さんの部下として働いて毎月決まった額の給料を貰うこと。
こっちは、安定した収入が得られるのが魅力なんだよね。
もう一つは、僕個人が色々な仕事を請け負うこと。
僕の能力を活かして、人探しや身辺調査なんかが多いかな。
こっちは依頼人と相談して、働きに応じた金額が貰えるんだ。
だから、客がお金持ちだと一気に大きな儲けになったりするんだよね。
この二つの方法を駆使して、僕は透花さんに借金を返してる。
毎月地道ではあるけど、借金が減っていくのは気持ちがいいものだよ。
さて、今日の依頼人はどんな人かな?
とびっきりの富豪で、気前よくお金を払ってくれる人だといいんだけどなぁ。
そんなことを考えながら、僕は待ち合わせ場所の喫茶店に向かったんだ――――――――――。