恩人に、精一杯の感謝を込めて
⑯午後十時四十五分、透花の私室にて
「透花さん、これ使ってください!」
最後に部屋にやって来た颯が透花に渡したのは、掌サイズのプレゼントだ。
薄ピンク色の箱を開けると、そこには一本のルージュが入っていた。
「わあ、かわいい!」
「春の限定色っす! グロスと迷ったんすけど透花さんならこっちかなって!」
「綺麗な桜色だね。早速つけてみてもいいかな?」
「もちろんっすよ! つけてみてください!」
透花は蓋を開けると、ゆっくりと唇を彩っていく。
「どうかな?」
「さすが透花さん、めちゃくちゃ似合ってます! キレイっすよ!」
「うふふ、ありがとう。大切に使わせてもらうね」
「うっす!」
ちなみにこのリップ、ブランドと色を指定して買ってきてもらった物だ。
ここは、デパートなどに入っている化粧品のブランドなのだ。
ほぼ女性しかいない空間に、颯が足を踏み入れられるはずがない。
柊平に頼んだのだが、一人で行くことに難色を示していた。
そこで、晴久も付き添って二人で買い物に行ったというわけである。
「透花さん、ちょっと靴下を脱いでもらってもいいすか!?」
「うん、大丈夫だよ。えっ、颯くん……!?」
透花は、颯に言われた通りに靴下を脱いだ。
すると颯は、そのまま彼女の爪先にキスをしたのだ。
「颯くん、そこはさすがに汚いんじゃ……」
「透花さんの体に汚いところなんてないっすよ!」
「いや、そう言ってもらえるのは嬉しいけれど……」
困惑する透花の様子などお構いなしに、颯は言葉を紡ぐ。
「透花さん、俺のことを助けてくれて本当にありがとうございました! 俺、ここでみんなと暮らせて毎日とっても楽しいっす!」
爪先へのキス、その意味は、崇拝――――――――――。