明るく、長閑な空気を持つ人
⑭午後十時十五分、透花の私室にて
理玖の次に透花の部屋にやって来たのは、ギターを抱えた虹太だった。
「あれ? 透花さん、顔が真っ赤じゃーん♪」
「……ぱっと見ただけで分かるくらい、赤くなっている?」
「うんうん、この企画を楽しんでもらえてるみたいで嬉しいよ~☆」
「……そうだね。虹太くんの想像以上に楽しませてもらっていると思うよ」
「こんな透花さんを見られるなんて、俺ってばラッキーだなぁ♪」
虹太は、いつものようにふにゃりとした笑顔を浮かべる。
それを見ていた透花は、自分の心が落ち着いていくのを感じた。
「まずはこれ、オマケのプレゼントね☆」
虹太はそう言うと、小さな箱を透花へと渡した。
それを開けてみると、桃色の和菓子がいくつか並んでいる。
「わあ、かわいい! この香り、桜でも桃でもないね。梅の花かな?」
「だいせいかーい☆ 透花さんなら、やっぱり梅がいいかなって思って♪」
「ふふふ、私、梅干しが大好きだもんね。ありがとう、虹太くん」
「どういたしまして~! でも、本命はコッチだよ~!」
虹太はギターを構えると、咳払いをした。
「え~、おほん! 透花さんのために歌を作ってきたので、歌います!」
「すごい! 歌を作ったってことは、歌詞も虹太くんが書いたの?」
「そうだよ~。作曲はともかく作詞は初挑戦だからビミョーかもしれないけど、ひろーい心で聴いてもらえると助かりまっす☆ じゃあ、歌うね~!」
虹太の指が弦を弾き、柔らかなメロディを奏でていく。
導入部が終わると、そこに虹太の明るく爽やかな声が加わった。
初めて作詞に挑戦したとは思えないほど、堂々と歌い上げていく。
“春”を思わせる温かな曲に、透花はいつの間にか聴き入っていた。
先程までざわついていた心が、静かに凪いでいくのを感じる。
「ご清聴、ありがとうございました~☆」
「とても素敵な曲だね。聴いているだけで優しい気持ちになれる気がするよ」
「ほんと!? 思い切って挑戦してみてよかった~♪」
歌い終えると、虹太は静かにギターを下ろした。
そして、透花に近付くと自然な動作で頬にキスをする。
「……虹太くん、ありがとう。なんだかすごく落ち着いたよ」
「あれ!? なんで!? キスって普通ドキドキするものじゃないの~!?」
晴久、理玖と想定外の出来事の連続に透花は戸惑っていた。
だが、虹太のおかげで平常心を取り戻せたようだ。
彼の存在が一色隊の皆に与える影響は、本人の想像よりも大きいのだろう。
虹太がいる場所の空気は、いつも明るく長閑だ。
頬へのキス、その意味は、親愛――――――――――。