伝染する熱
⑫午後九時四十五分、透花の私室にて
「……し、失礼します」
四番手の晴久が、顔を真っ赤に染めたまま部屋へとやって来る。
虹太がこのイベントを企画した時には特に反対していなかったものの、いざ自分がキスをするとなるとやはり恥ずかしいのだろう。
心はともかく、柊平と蒼一朗もそれなりに照れてはいたのだ。
だが二人はその感情を上手く隠していたため、透花も普通に応じられた。
しかし、晴久のようにあからさまな態度を取られるとなれば話は別だ。
彼の熱が自分にじわじわと伝染していくのを、透花は感じていた。
「えへへ、なんだか恥ずかしいね」
「そ、そうですね。あの、透花さん。これを受け取っていただけますか?」
そう言うと晴久は、紙袋を透花に渡す。
開けてみると、そこには白いレースの手袋が入っていた。
「わあ、綺麗……! これ、ドレス用のグローブかな?」
「はい。僭越ながら、僕が編ませてもらいました」
「すごいね! こんなに繊細なデザイン、手作りできるんだ!」
「お仕事柄、ドレスを着る機会も多いのでよかったらその時に使ってください。白なので、どんな色のドレスにも合わせられると思います」
「ありがとう、ハルくん。次にドレスを着る時にぜひ使わせてもらうね」
「こちらこそありがとうございます。そう言ってもらえるととても嬉しいです」
二人の間に、緊張感が解けた和やかな空気が流れる。
しばらくそのまま会話を楽しんでいたが、いつまでもこうしてはいられない。
晴久は四番手なので、後に残りの四人が控えているのだ。
「あ、あの、透花さん……!」
意を決した晴久が、一歩を踏み出そうとした時のことだった。
勢いがつき過ぎたのか、床に躓きそのまま透花の方へと倒れ込んでしまう。
「ハルくん、危ない!」
透花が受け止めたことにより、晴久は転倒せずに済んだ。
だが、その際に唇が透花の瞼に触れてしまったのだ。
「あ、ごごごごめんなさい……!!」
「あ、ハルくん……!」
晴久はみたこともない速さで透花から離れた。
そして、制止の声も聞かずに真っ赤な顔のまま部屋から飛び出してしまう。
(も、元々瞼にしようとは思ってました……! でも、あんな形ですることになるなんて……! 透花さんの顔が、いきなりすごく近くなりましたよ……!)
瞼へのキス、その意味は、憧憬――――――――――。