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ライバルとして、だけじゃねーけど
⑪午後九時三十分、透花の私室にて
「心、寝ちまったのか?」
「うん。よっぽど眠かったんだね」
三番手の蒼一朗が透花の私室を訪れても、心は眠りこけていた。
心が起きる様子がないことを確認すると、ぶっきらぼうに何かを渡す。
「……これ」
「わあ、ボヌールのチョコだ! しかも、こんなにたくさん!」
彼が渡したのは、チョコレートの詰め合わせだった。
競走する度に賭けの対象として透花が挙げていた店の商品である。
様々な理由により、蒼一朗がこれを透花に贈ったことはまだないのだ。
「デカいのにしたから、これだけあればあんたも満足できるだろ」
「蒼一朗さん、ありがとう! 本当にずっと食べたかったんだ!」
透花は、無類のチョコレート好きなのだ。
いつもよりも無邪気な笑顔を浮かべる透花を見て、蒼一朗は頬を掻いた。
「……前髪、上げろよ」
「………………? うん」
言われた通りに額を出した透花に、蒼一朗はそっと口付ける。
「また、勝負しようぜ」
そして、眠っている心を米俵のように担ぎ上げると部屋を後にしたのだった。
額へのキス、その意味は、友情――――――――――。