子どもに戻れる場所
⑩午後九時十五分、透花の私室にて
二番手の心は、扉をノックしてから部屋に入っていく。
「いらっしゃい、心くん」
「透花さん、こんばんは……。これ……」
心は眠そうな目をこすりながら、透花に一枚の布を手渡した。
ラッピングがされていないところが、何とも心らしい。
「わあ、柔らかくてふわふわだね。とっても気持ちいいよ」
「……ぱかおの毛で作った、膝かけだよ」
「だから最近、ぱかおはスリムになっていたんだね。心くんが編んでくれたの?」
「……うん。晴久さんに教わりながら、作った……」
「ここ数日眠そうだったのは、これを用意してくれていたからだったんだ」
「もう春になっちゃうから、次の冬にでも使ってくれると嬉しい……」
「もちろんだよ。ありがとう、心くん」
心は膝を折ると、透花の腰に腕を回し腹部に顔を押し付ける体勢になる。
「服の上からでも、別にいいよね……」
その格好のまま、どうやらお腹にキスをしたようだ。
「ん、安心する……。とっても、眠いや……」
そう言った数秒後には、安らかな寝息が透花の耳に聞こえてきた。
「すごく頑張ってくれたんだね。心くん、ありがとう」
赤子のように眠る心の頭を、透花は優しく撫でた。
腹へのキス、その意味は、回帰――――――――――。