悪事は許さない
――――――急な雪に、民衆はきっと混乱すると思うの。そこを狙って悪事を働く者や、何かしらの事件が起きるかもしれない。パニックやトラブルには、その都度対応をお願いするね。対応の仕方は、全面的に任せるから!
「きゃー! 私の財布が!」
「スリだ! 誰か捕まえとくれー!」
柊平は、先程の透花の言葉を思い出す。
(隊長の予想通りというわけか……)
雪に乗じて、盗みを働く者が出たようだ。
この庭内には透花の隊以外にも多くの軍人がいるが、突然の雪に混乱しているのか、誰もスリを捕まえることができずにいた。
「……柏木、行くぞ」
「へいへい。こういうのは俺たちの仕事だよな」
二人が騒ぎのする方向へ向かって行くと、ものすごい勢いでこちらに走って来る者がいた。
「……あいつか」
「ああ、そのようだな。捕まえるぞ」
「りょーかい」
スリは、後ろから自分を追いかけて来る者たちにしか注意を払っていなかった。
(へへへ、楽勝だったぜ……!)
このまま庭外に出てしまえば捕まることはないだろうと、ほんの少し油断したその時だった。
「うおっ……!」
何かに躓き、体勢を崩す。
それは、柊平の足だった。
体勢を崩したところを、蒼一朗に取り押さえられる。
そして、あっという間に柊平に手錠をかけられてしまった。
「……畜生、放せ、放せー!」
「あんまり騒ぐんじゃねーよ。怪我、したくないだろ?」
「くっ……」
スリは、最初こそ抵抗したものの、蒼一朗が取り押さえる力を強めるとあっさりと大人しくなった。
「おら、立て。……じゃあ俺、こいつ連れてくわ」
「ああ、頼む。この場の後始末は、私がしておく」
それから柊平は、スリ騒動でざわつく民衆への対応を終えると、引き続き見回りをはじめた。