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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十二話
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拍手の数だけ愛を返すよ!

③午後三時三十分、公園にて


 少しずつ春めいてきた公園で、虹太はリサイタルを行っていた。

 老若男女問わず、今日もたくさんの客が集まってくれている。

 その中には見知った顔も多いのだが、新顔もちらほらいるようだ。


「今日はホワイトデーだから、俺からちょこっとプレゼントがあります♪」


 三十分ほどで演奏を終え、本日のリサイタルは幕を閉じた。

 すると虹太は、お返しとして観客たちに個装の焼き菓子を配り始めたのだ。


「椎名さん、うちらにもちょーだい!」

「お返しは演奏でいいって言ったけど、貰えるもんは貰う主義だからさ!」

「お菓子まで用意してるなんて、さっすが椎名さん、女心がわかってる~!」


 虹太に声をかけてきたのは、すっかり常連になった女子高生三人組だ。

 彼女たちの横には、居場所がなさそうな男子高校生が三人立っている。


「どーぞ♪ ってかみんな、ちゃっかり彼氏できてんじゃーん!」

「えへへ、実はバレンタインに告ってたんだよね!」

「うちも! オッケーもらえてちょー嬉しい♡」

「今日は、トリプルデートしに来たんだよ!」

「彼氏を優先してあげなって言ったのに、まさか連れてきちゃうなんてびっくりしたよ~! ほらほら、彼氏くんたちにもお菓子あげるからおいで☆」


 虹太は、気まずそうにしている彼氏たちに気さくに声をかけた。

 そして、一人一人に笑顔で焼き菓子を渡していく。


「あ、あざっす!」

「……ありがとうございます」

「どうもっす」

「おお、若いのにちゃんとお礼が言えるいい子たちじゃーん!」

「椎名さん、そのセリフちょっとおっさんっぽいって!」

「確かに! でも、うちらとそんなに年齢変わんないよね?」

「大学生だっけ? ってか、よくここにいるけどちゃんと大学行ってんの?」

「おっさんってショックなんだけど! 大学生は、二月から春休みで暇なんだよ~。俺、見た目はチャラいかもしんないけどけっこー真面目だからね!?」


 その会話は、テンポよくどんどんと続いていく。


「そういえば、このお菓子って椎名さんの手作りだったりする?」

「まっさか~! 俺が手作りなんてするわけないよ~」

「えー、今は男も料理する時代だよ?」

「……俺に料理なんかさせたら、死ぬよ?」

「えっ、椎名さんそんなに飯マズなの!?」

「いや、料理を食べた人じゃなくて、死ぬのは俺の方なんだよね~」

「そっちかい! って、そんなに不器用なんすか?」

「音楽以外はさっぱりだからね~。俺、キッチン使用禁止令を出されてるし」

「……それだと、何かと不便じゃありませんか?」

「うーん、特にそう感じたことはないかな。同居人にお願いすれば、すぐに美味しい物を作って出してくれるからね。適材適所ってやつだよ~」

「同居人って彼女すか?」

「んーん、その人は男の人だよ~」


 いつの間にか、彼氏たちも話の輪に加わっている。

 これも、虹太の朗らかな人柄がなせる業なのかもしれない。


「椎名さんも、彼女できたらうちらに紹介してよね~!」

「そうそう! 悪い女じゃないか見極めてあげるからさ!」

「トリプルの次はなんだろ? まあいっか。四組でデートしよーね!」

「はいはーい! この後もデート楽しんでね~☆」


 一通り会話を楽しむと、高校生六人組は去っていった。

 他の観客にも焼き菓子を配り終えてから、虹太はキーボードを片付ける。


(あいにくホワイトデーを一緒に過ごすような恋人はいないけど、今日は俺主催の楽しい企画が待ってるもんね~♪ 寄り道しないで帰るぞ~!)


 片付けを終えると、虹太はキーボードと荷物を持って歩き出した。

 人には聴こえないほどの小さなメロディが、彼から流れ出している。

 夜に待つ楽しみを抑えきれない虹太は、鼻歌を奏でながら上機嫌で家路を辿るのだった――――――――――。

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