拍手の数だけ愛を返すよ!
③午後三時三十分、公園にて
少しずつ春めいてきた公園で、虹太はリサイタルを行っていた。
老若男女問わず、今日もたくさんの客が集まってくれている。
その中には見知った顔も多いのだが、新顔もちらほらいるようだ。
「今日はホワイトデーだから、俺からちょこっとプレゼントがあります♪」
三十分ほどで演奏を終え、本日のリサイタルは幕を閉じた。
すると虹太は、お返しとして観客たちに個装の焼き菓子を配り始めたのだ。
「椎名さん、うちらにもちょーだい!」
「お返しは演奏でいいって言ったけど、貰えるもんは貰う主義だからさ!」
「お菓子まで用意してるなんて、さっすが椎名さん、女心がわかってる~!」
虹太に声をかけてきたのは、すっかり常連になった女子高生三人組だ。
彼女たちの横には、居場所がなさそうな男子高校生が三人立っている。
「どーぞ♪ ってかみんな、ちゃっかり彼氏できてんじゃーん!」
「えへへ、実はバレンタインに告ってたんだよね!」
「うちも! オッケーもらえてちょー嬉しい♡」
「今日は、トリプルデートしに来たんだよ!」
「彼氏を優先してあげなって言ったのに、まさか連れてきちゃうなんてびっくりしたよ~! ほらほら、彼氏くんたちにもお菓子あげるからおいで☆」
虹太は、気まずそうにしている彼氏たちに気さくに声をかけた。
そして、一人一人に笑顔で焼き菓子を渡していく。
「あ、あざっす!」
「……ありがとうございます」
「どうもっす」
「おお、若いのにちゃんとお礼が言えるいい子たちじゃーん!」
「椎名さん、そのセリフちょっとおっさんっぽいって!」
「確かに! でも、うちらとそんなに年齢変わんないよね?」
「大学生だっけ? ってか、よくここにいるけどちゃんと大学行ってんの?」
「おっさんってショックなんだけど! 大学生は、二月から春休みで暇なんだよ~。俺、見た目はチャラいかもしんないけどけっこー真面目だからね!?」
その会話は、テンポよくどんどんと続いていく。
「そういえば、このお菓子って椎名さんの手作りだったりする?」
「まっさか~! 俺が手作りなんてするわけないよ~」
「えー、今は男も料理する時代だよ?」
「……俺に料理なんかさせたら、死ぬよ?」
「えっ、椎名さんそんなに飯マズなの!?」
「いや、料理を食べた人じゃなくて、死ぬのは俺の方なんだよね~」
「そっちかい! って、そんなに不器用なんすか?」
「音楽以外はさっぱりだからね~。俺、キッチン使用禁止令を出されてるし」
「……それだと、何かと不便じゃありませんか?」
「うーん、特にそう感じたことはないかな。同居人にお願いすれば、すぐに美味しい物を作って出してくれるからね。適材適所ってやつだよ~」
「同居人って彼女すか?」
「んーん、その人は男の人だよ~」
いつの間にか、彼氏たちも話の輪に加わっている。
これも、虹太の朗らかな人柄がなせる業なのかもしれない。
「椎名さんも、彼女できたらうちらに紹介してよね~!」
「そうそう! 悪い女じゃないか見極めてあげるからさ!」
「トリプルの次はなんだろ? まあいっか。四組でデートしよーね!」
「はいはーい! この後もデート楽しんでね~☆」
一通り会話を楽しむと、高校生六人組は去っていった。
他の観客にも焼き菓子を配り終えてから、虹太はキーボードを片付ける。
(あいにくホワイトデーを一緒に過ごすような恋人はいないけど、今日は俺主催の楽しい企画が待ってるもんね~♪ 寄り道しないで帰るぞ~!)
片付けを終えると、虹太はキーボードと荷物を持って歩き出した。
人には聴こえないほどの小さなメロディが、彼から流れ出している。
夜に待つ楽しみを抑えきれない虹太は、鼻歌を奏でながら上機嫌で家路を辿るのだった――――――――――。