ねえねえ、知ってる?
「ねえねえ、キスはする場所によって意味が違うって、みんな知ってた~?」
ホワイトデーが近付いてきたとある日、この言葉が虹太の口から発せられた。
彼の呼びかけにより、現在リビングには男性隊員八人全員が揃っている。
招集を無視しようとした者は、半ば強引に連れてこられたのだが。
「へえ、面白いね。そういう雑学には疎いから、ためになるよ」
「キ、キキキキス……!? キスって、あのキスっすか……!?」
「……相変わらず、突拍子もない男だな」
「おいしいよね……。天ぷら、食べたい……」
「鱚の旬は確か夏でしたよね。違う魚でもよければ、明日は天ぷらにしましょう」
「いやいや、ハル。ここはキス違いだって突っ込んでいいところだからな」
「………………………………」
虹太の言葉に、それぞれが様々な反応を返す。
それを見た虹太は朗らかな笑みを浮かべると、再び口を開いた。
「もうすぐホワイトデーじゃん? だから、透花さんにキスのプレゼント……」
「却下」
「ちょっと、りっくーん! せめて最後まで言わせてよ~」
虹太の言葉を遮ったのは、無言で呆れたように溜め息を吐いていた理玖だ。
「……最後まで聞いても答えは変わらない。話がそれだけなら部屋に戻るけど」
「そんな邪険にしなくてもいいじゃーん。他のみんなはどう?」
各々が、虹太が持ってきた紙を見ながら自分の意見を口に出していく。
そこには、キスする場所とその意味が記されているようだ。
「……隊長に口づけをするというのは、失礼ではないだろうか」
「器が大きい人だから大丈夫っすよ! 俺は透花さん相手なら賛成っす!」
「僕もいいよ。たまにはこういう企画も面白いと思うし」
「へー、意外だわ。お前のことだから、思い出より物が大切とか言うと思った」
「僕は正直、恥ずかしいという気持ちが強いのですが……。でも、普段は言葉にしない気持ちを伝えるいい機会なのかもしれないなぁとも思います」
「透花さんが喜ぶなら、いいよ……」
皆の意見を聞き終えた虹太は、瞳を輝かせながら理玖に話しかける。
「ほら、みんなもこう言ってるよ~!」
「……じゃあ、君たちだけでやればいいだろう。僕を巻き込まないでくれ」
「りっくんは、透花さんの喜ぶ顔が見たくないの? どんなに高価な物や珍しい物をプレゼントするよりも、絶対にこういう気持ちがこもったものの方が喜んでくれると思うんだけどな~。だって、透花さんってそういう人じゃーん!」
この言葉に、理玖がピクリと反応する。
訪れた好機を逃してはいけないと、虹太は更に畳みかけるのだった――――――――――。




