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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十一話
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きっとまた、運命の場所に

「透花さんがそんな風に言うということは、立派なお父さんなんでしょうね」

「うん、そうだね。尊敬している人間を聞かれたら、父だって答えるよ」

「素敵な関係ですね。お母さんはどんな方なんですか?」

「穏やかでとても優しい人だったよ。私の容姿は、どちらかというと母似かな」

「そうなんですね。ご兄弟はいらっしゃるんですか?」

「……うん。姉と弟が」


 この答えは、僕にとって意外でした。

 なんとなく、透花さんからは姉弟がいる雰囲気を感じ取れなかったからです。


「僕、てっきり透花さんは一人っ子かと思ってました」

「それ、よく言われるよ。あんまり姉や弟がいるようには見えないって」

「お姉さんや弟さんは、どういう方なんですか?」

「……姉は、情熱的な人だった。弟は、そうだな……。琉生様に似てると思うよ」

「琉生様似ということは、さぞかし可愛らしい弟さんなんでしょうね」

「うん、すごく可愛くて、とても仲良しだったの」

「なんだか微笑ましいです。そうだ、今度みなさんを一色邸にご招待しませんか? 僕、色々な料理を作っておもてなしをしますから」


 僕の提案を聞くと、透花さんは哀しそうに笑いました。


「……うーん、それはちょっとできないかな」

「そうなんですか? とても遠い場所で暮らしているんでしょうか?」

「……そうだね。全員、空の上にいるからね」


 ……透花さんが家族に対して使う言葉は、ほとんどが過去形でした。

 そうですか、みなさん、既に亡くなっているんですね……。


「……ごめんなさい。話したくないことを聞いてしまって……」

「ううん、大丈夫だよ。本当に話したくなかったら、わざわざ口にしないよ。……この夕日を見ていたら、なんだか感傷的な気分になっちゃってさ。いつもはあまりこういう話はしないんだけど、ハルくんに聞いてほしくなっちゃったの」


 ……そう言って微笑む透花さんは、いつもよりも更に儚げです。

 このまま、夕日に溶けて消えてしまうんじゃないかって思うくらいに……。


「……ハルくん?」


 僕は気付くと、透花さんの手を握っていました。

 ……温かいその手は、彼女がここにいる証明です。


「随分手が冷たくなっちゃったね。そろそろ帰ろうか」

「……はい。風邪をひいたら大変ですからね」

「寒い所にいたせいで風邪をひいたなんて言ったら、理玖に呆れられそう」

「ふふふ、そうですね。でも、理玖さんならよく効く薬をくれますよ」


 ……僕と透花さんは、手を繋いだまま歩き出しました。

 ここは、僕と透花さんが出逢った運命の場所です。

 そこで今まで知らなかった彼女の話を聞けたのも、運命なのかもしれません。

 ……正直なところ、もうこの地に戻るつもりはないです。

 でも、もしまた僕に転機が訪れるなら、ここがきっかけになる気がします。

 徐々に弱くなっていくオレンジ色の輝きを背中で感じながら、僕はそんなことを考えていたのでした――――――――――。

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