きっとまた、運命の場所に
「透花さんがそんな風に言うということは、立派なお父さんなんでしょうね」
「うん、そうだね。尊敬している人間を聞かれたら、父だって答えるよ」
「素敵な関係ですね。お母さんはどんな方なんですか?」
「穏やかでとても優しい人だったよ。私の容姿は、どちらかというと母似かな」
「そうなんですね。ご兄弟はいらっしゃるんですか?」
「……うん。姉と弟が」
この答えは、僕にとって意外でした。
なんとなく、透花さんからは姉弟がいる雰囲気を感じ取れなかったからです。
「僕、てっきり透花さんは一人っ子かと思ってました」
「それ、よく言われるよ。あんまり姉や弟がいるようには見えないって」
「お姉さんや弟さんは、どういう方なんですか?」
「……姉は、情熱的な人だった。弟は、そうだな……。琉生様に似てると思うよ」
「琉生様似ということは、さぞかし可愛らしい弟さんなんでしょうね」
「うん、すごく可愛くて、とても仲良しだったの」
「なんだか微笑ましいです。そうだ、今度みなさんを一色邸にご招待しませんか? 僕、色々な料理を作っておもてなしをしますから」
僕の提案を聞くと、透花さんは哀しそうに笑いました。
「……うーん、それはちょっとできないかな」
「そうなんですか? とても遠い場所で暮らしているんでしょうか?」
「……そうだね。全員、空の上にいるからね」
……透花さんが家族に対して使う言葉は、ほとんどが過去形でした。
そうですか、みなさん、既に亡くなっているんですね……。
「……ごめんなさい。話したくないことを聞いてしまって……」
「ううん、大丈夫だよ。本当に話したくなかったら、わざわざ口にしないよ。……この夕日を見ていたら、なんだか感傷的な気分になっちゃってさ。いつもはあまりこういう話はしないんだけど、ハルくんに聞いてほしくなっちゃったの」
……そう言って微笑む透花さんは、いつもよりも更に儚げです。
このまま、夕日に溶けて消えてしまうんじゃないかって思うくらいに……。
「……ハルくん?」
僕は気付くと、透花さんの手を握っていました。
……温かいその手は、彼女がここにいる証明です。
「随分手が冷たくなっちゃったね。そろそろ帰ろうか」
「……はい。風邪をひいたら大変ですからね」
「寒い所にいたせいで風邪をひいたなんて言ったら、理玖に呆れられそう」
「ふふふ、そうですね。でも、理玖さんならよく効く薬をくれますよ」
……僕と透花さんは、手を繋いだまま歩き出しました。
ここは、僕と透花さんが出逢った運命の場所です。
そこで今まで知らなかった彼女の話を聞けたのも、運命なのかもしれません。
……正直なところ、もうこの地に戻るつもりはないです。
でも、もしまた僕に転機が訪れるなら、ここがきっかけになる気がします。
徐々に弱くなっていくオレンジ色の輝きを背中で感じながら、僕はそんなことを考えていたのでした――――――――――。