無意味なことなんて、ない。
「わあ、とても綺麗……! ハルくん、素敵な場所に案内してくれてありがとう」
「いえ、いつか透花さんと一緒にここで夕日を見れたらなって思ってたんです」
僕があの崖に案内すると、透花さんはとても喜んでくれました。
少しずつ暖かくなってきた風に吹かれながら、二人で静かに夕日を眺めます。
しばらくそうしていると、透花さんが笑顔で僕の方に振り返りました。
「ハルくん、お疲れ様。とても凛々しくてかっこよかったよ」
「そ、そんな……! ただいっぱいいっぱいだっただけです……!」
「そうかな? ここで初めて会った時とは比べ物にならないくらい、ハルくんはいい意味で変わったと思うよ。落ち着いた、大人の男の人になった」
「……ありがとうございます。嬉しいけど、恥ずかしいですね」
僕の顔は、透花さんの言葉を聞いて一瞬で熱を帯びました。
夕陽のおかげで、真っ赤になっているのはわからないと思いますが……。
透花さんはこちらを見ずに、夕日に視線を向けたまま口を開きました。
「……ご両親に、ちゃんとハルくんの気持ちは伝わったと思うよ」
「……そんなことありませんよ。結局、勘当されてしまいましたし」
「確かに、理解はしてもらえなかったかもしれない。でも、伝わったとは思う。少なくとも私は、あの時あの場でそう感じたよ」
「……ありがとうございます、透花さん。……僕もそう思いたいです」
僕のしたことは、もしかしたら無意味だったのかもしれません。
……でも、こんな風に感じてくれる人が一人でもいるということは、何かしらの意味はあったって思ってもいいですよね……?
「話には聞いていたけれど、なかなかに強烈なご両親だったね」
「……自分でもそう思います。僕は、容姿は祖父、性格は祖母に似ているので、あまり両親に似ているところがないんですよね」
家族の話をしている内に、僕の口からとある疑問がぽろりと飛び出しました。
それは、ずっと前から気になっていたことで……。
「透花さんのご家族は、どういう方なんですか?」
僕の質問を聞くと、透花さんは曖昧な微笑みを浮かべました。
透花さんは、いつでも僕たちの話をたくさん聞いてくれます。
……でも、自分のことはほとんど話さないんです。
特に、過去の話、そして家族の話は絶対にしません。
今日も、いつもみたいに誤魔化されてしまうかなと思ったんですが……。
「……そうだね。父は、とても勇敢で聡明な人だったよ」
透花さんが初めて、自分の家族の話題に触れました。
夕日に照らされたその表情から、僕は感情を読み取ることができません。
透花さんはそのまま、ぽつりぽつりと言葉を零し始めたのでした――――――――――。