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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十一話
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二人の魂は、僕の料理の中に

「僕は、ホテルが潰れようとも構いません」


 僕の言葉を聞いて、両親は絶望の表情を浮かべています。

 ……祖父母の話をすれば、僕を引き止められると思っていたんでしょう。


「僕は、祖父母の温かいおもてなしに満ちたあのホテルが大好きでした。でも、今ホテルを経営しているのはあなたたちであって、祖父母ではない。……僕が愛したホテルはもうどこにもないので、守りたいという気持ちはありません」


 母は、人目を憚らずに大粒の涙を零しました。

 ……父も、力なくその場にへなへなと座り込んでしまっています。


「……それに、二人は僕の料理の中にいますから。おじいちゃんの魂は包丁に、おばあちゃんの魂はレシピにそれぞれ宿っているんです。本当に僕のことを愛していてくれた二人なら、絶対に今の僕のことを応援してくれていたはずです」


 両親は、既に言い返す気力すらなくなってしまったようです。

 ……その姿を見て、正直心が痛まないわけではありません。

 でも、僕は僕の人生を、自分の足で進んでいきたいから。

 その先にしか、本当の幸せはないって感じるんです。


「……二度と、二度と顔を見せるな!!」


 しばらくの沈黙の後に、父が言い放ったのはそんな言葉でした。


「もうお前のことなど知らん! どこへでも行って、勝手に生きろ!!」


 怒鳴るように言った父は、大股で会場を出て行きます。

 母は僕を気にしている様子ではありましたが、父を追いかけていきました。

 ……僕の気持ちは、きっと理解してもらえなかったんでしょう。

 ……それでも、自分なりに精一杯の伝える努力はできたはずです。


「今までありがとうございました。……お元気で」


 僕は、両親が出て行った扉に向けて深く頭を下げました。

 ……もう二度と、父と母に会うことはないのかもしれません。

 お父さん、あなたの望むような息子になれなくてごめんなさい。

 お母さん、あなたを助けてあげられなくてごめんなさい。

 ……ここで、お別れです。

 さようなら――――――――――。

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