69/780
彼は、決断した。
心が目を閉じてから、どれくらいの時間が経っただろう。
近くにある動物の気配は、自分から離れていく様子はない。
不思議に思い目を開けると、左前足を舐めている彼の姿が視界に入る。
「君、もしかして足が……」
彼が負っている怪我は、かすり傷だけではなかったのだ。
すぐにでも人間から離れたいという気持ちはあるものの、怪我をした足がそれをさせてくれない。
「やっぱり薬を……」
そう言い、彼に近付こうとした心の動きが止まる。
自分以外の人間の気配を、周囲に感じたからだ。
怪我の様子から、彼はこれ以上自力では逃げられないだろう。
(僕が、なんとかしないと……)
心は立ち上がると、優しい声で言う。
「……君のことを捕まえようとしている人間が近付いてる。でも、君は安心してここで待ってて。彼らのことは、僕がなんとかするから……」
アルパカの瞳には、先程とは少しだけ違う光が宿ったように見えた。
心はそれを横目で確認すると、立ち上がる。
そして、男たちがいる方へ向かっていった。