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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十一話
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素晴らしいよりも、美味しいって言ってほしかった

「僕の料理を食べたことがないのに、どうして素晴らしいと言えるんですか?」


 ……自分でも、卑怯な言い方だというのはわかっています。

 大勢の人がいる前で、両親の評判を落とすようなことを言ったんですから。

 でも僕は、ここで自分の気持ちをはっきりと伝えなければなりません。

 両親との仲に決着をつけるために、僕はここに戻ってきたんです。


「そ、それは……!」

「桜庭廉太郎が認めたのだから、素晴らしいに決まっているだろう!? そんなもの、食わなくてもわかる! わざわざ食う必要なんかない!」


 父の発言を聞いて、会場内が一段と騒がしくなります。

 ……その声のほとんどが、父を批判するようなものでした。


「僕の仲間たちは、料理を出すといつも美味しいって言ってくれる人ばかりなんです。そんな当たり前のことを、あなたたちはしてくれなかった。僕に料理を教えてくれて、愛してくれたのはおじいちゃんとおばあちゃんでした。その二人がいなくなってから、生きる理由を作ってくれたのが今の仲間であり、上司です。僕は、大好きなみんなの傍を離れるつもりは一切ありません」

「これからは、私たちがあなたの料理を食べてあげるから……!」

「そうだ! そんな少ない人数だけじゃなく、客にも食べてもらえるんだぞ! そっちの方が名誉なことだとなぜわからない!?」

「……もう、僕はあなたたちに自分の料理を食べてほしいとは思えないんです」


 この言葉を発した時、僕は一体どういう表情をしていたんでしょうね……?


「あなたたちが経営するホテルのお客様についても同様です。僕は、名誉が欲しいわけじゃありません。自分が大切な人たちのために力を使いたいだけです」

「私たちはあなたの親なのよ……!?」

「他人なんかよりも何倍も大切な存在のはずだろう!?」

「……僕が桜庭さんに振る舞った料理には、とある食材が使われています。これはとても珍しいもので、入手方法を知った時は自分でもおとぎ話みたいだと思いました。……でも、仲間たちは僕の話を疑わずに信じてくれました。そして、食材探しを手伝ってくれたんです。……もし僕がずっとあなたたちと一緒に暮らしていたら、絶対に完成することはなかった。桜庭さんが認めてくれたのは、そういう料理なんです。血が繋がっているか、親子かどうかなんて関係ありません。自分を信頼してくれる彼らに、僕はあなたたちよりも強い絆を感じています」


 ……僕が人魚の涙の話をした時、みなさんは疑いもしませんでした。

 僕がクレアさんに会った話をした時も、笑うこともせずに信じてくれました。

 そんなみなさんのことを僕も信頼しているし、大好きなんです。

 ……血の繋がりよりも、僕は自分の気持ちを優先します。


「私たちよりも、出会って一年ちょっとの他人が大切だって言うの……!?」

「お前が戻ってこなければ、お前の大好きな祖父母が守ってきたホテルがなくなるんだぞ!? お前の発言はそういう意味だとわかっているのか!?」

「わかっています。僕は、ホテルが潰れようとも構いません」


 父からの質問に、僕は間髪入れずに答えます。

 もはや、父の言葉に心が揺らぐことはありませんでした。

 だって、この答えは僕の中でずっと前から決まっていたんですから――――――――――。

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