素晴らしいよりも、美味しいって言ってほしかった
「僕の料理を食べたことがないのに、どうして素晴らしいと言えるんですか?」
……自分でも、卑怯な言い方だというのはわかっています。
大勢の人がいる前で、両親の評判を落とすようなことを言ったんですから。
でも僕は、ここで自分の気持ちをはっきりと伝えなければなりません。
両親との仲に決着をつけるために、僕はここに戻ってきたんです。
「そ、それは……!」
「桜庭廉太郎が認めたのだから、素晴らしいに決まっているだろう!? そんなもの、食わなくてもわかる! わざわざ食う必要なんかない!」
父の発言を聞いて、会場内が一段と騒がしくなります。
……その声のほとんどが、父を批判するようなものでした。
「僕の仲間たちは、料理を出すといつも美味しいって言ってくれる人ばかりなんです。そんな当たり前のことを、あなたたちはしてくれなかった。僕に料理を教えてくれて、愛してくれたのはおじいちゃんとおばあちゃんでした。その二人がいなくなってから、生きる理由を作ってくれたのが今の仲間であり、上司です。僕は、大好きなみんなの傍を離れるつもりは一切ありません」
「これからは、私たちがあなたの料理を食べてあげるから……!」
「そうだ! そんな少ない人数だけじゃなく、客にも食べてもらえるんだぞ! そっちの方が名誉なことだとなぜわからない!?」
「……もう、僕はあなたたちに自分の料理を食べてほしいとは思えないんです」
この言葉を発した時、僕は一体どういう表情をしていたんでしょうね……?
「あなたたちが経営するホテルのお客様についても同様です。僕は、名誉が欲しいわけじゃありません。自分が大切な人たちのために力を使いたいだけです」
「私たちはあなたの親なのよ……!?」
「他人なんかよりも何倍も大切な存在のはずだろう!?」
「……僕が桜庭さんに振る舞った料理には、とある食材が使われています。これはとても珍しいもので、入手方法を知った時は自分でもおとぎ話みたいだと思いました。……でも、仲間たちは僕の話を疑わずに信じてくれました。そして、食材探しを手伝ってくれたんです。……もし僕がずっとあなたたちと一緒に暮らしていたら、絶対に完成することはなかった。桜庭さんが認めてくれたのは、そういう料理なんです。血が繋がっているか、親子かどうかなんて関係ありません。自分を信頼してくれる彼らに、僕はあなたたちよりも強い絆を感じています」
……僕が人魚の涙の話をした時、みなさんは疑いもしませんでした。
僕がクレアさんに会った話をした時も、笑うこともせずに信じてくれました。
そんなみなさんのことを僕も信頼しているし、大好きなんです。
……血の繋がりよりも、僕は自分の気持ちを優先します。
「私たちよりも、出会って一年ちょっとの他人が大切だって言うの……!?」
「お前が戻ってこなければ、お前の大好きな祖父母が守ってきたホテルがなくなるんだぞ!? お前の発言はそういう意味だとわかっているのか!?」
「わかっています。僕は、ホテルが潰れようとも構いません」
父からの質問に、僕は間髪入れずに答えます。
もはや、父の言葉に心が揺らぐことはありませんでした。
だって、この答えは僕の中でずっと前から決まっていたんですから――――――――――。