非愛情確認
「先程も言いましたが、僕は実家に戻るつもりはありません」
「お父さんとお母さんを困らせるようなことを言わないで……!」
「こ、この親不孝者が……!」
母は瞳に涙を浮かべ、父は怒りで顔を歪めています。
……二人の言う通り、僕は親不孝な息子なんでしょう。
「親不孝者でも構いません。……あなたたちが僕に戻ってきて欲しいのは、僕があなたたちの息子だからじゃないですよね。僕が、桜庭さんという高名な美食家に認められた料理人だからです。……違いますか?」
「「………………………………」」
僕からの質問に、両親が口を開くことはありませんでした。
……その沈黙が、僕の考えが図星であることを物語っているのでしょう。
「それならば、僕も料理人としてお断りします」
「た、たまたまあなたが料理人だっただけだわ……!」
「そうだ! 料理人である前に、お前は私たちの息子だろう!?」
「……では、僕の料理についてどう思いますか?」
「晴久の料理はとても素晴らしいわ!」
「あの桜庭廉太郎に認められているんだからな!」
「……具体的には、どういうところがでしょうか」
「そ、それは……」
「……素晴らしいものは素晴らしい! それ以外の感想はない!」
「そうですか……」
……そう言うしか、ないですよね。
だって、二人は僕の料理を一度も食べたことがないんですから……。
……親に愛されていないことは、ちゃんとわかっていたつもりでした。
でも、こうして改めて確認するのはやっぱり辛いものがありますね……。
僕の視線は、いつの間にか会場内にいる透花さんを探していました。
目が合うと、透花さんは僕に向けて口をパクパクと動かしています。
(……ありがとうございます、透花さん)
何て言ったのかはわからないけど、それだけで勇気を貰えた気がするんです。
……悲しい気持ちは消えないけど、ここで凹んでいるわけにはいきません。
僕の料理を美味しいと言ってくれるみなさんが待つ、あの家に帰りたいです。
……そのためには、苦しくてももう一頑張りしないとダメですよね。
僕は透花さんから視線を外すと、再び両親を見据えたのでした――――――――――。