決して揺らがないもの
一連のやり取りを見ていた招待客の方々が、お二人に温かい拍手を送ります。
……お祝いムードが漂う中、現状に納得できない人が二人だけいました。
「あ、愛甲社長……! お待ちください……!」
「それでは、うちのホテルを傘下に入れていただくというお話は……!?」
……当たり前のことですが、それは僕の父と母です。
愛甲社長は僕を見ると、困ったように話し始めました。
「……遠野くん、二つほど確認したいことがあるのだが」
「はい。何でもお聞きください」
「では、まずは一つ。君は、桔梗と結婚する意志はないんだね?」
「はい。愛甲さんが幸せになれるのは、天川さんの隣だと思いますので」
「それでは、二つ目だ。実家に戻って、後を継ぐ気もないということかい? さっきの言葉は、今の仕事を続けたいという風に私の耳には聞こえたものでね」
「愛甲社長の仰る通りです。僕は、今の仕事を辞める気はありません」
「ふむ、君の気持ちは分かった。今日まで桔梗と仲良くしてくれてありがとう」
僕の答えを聞くと、愛甲社長は両親に向き直ります。
「そちらのホテルを傘下に加える条件は、素晴らしい料理人である遠野くんが料理長としてキッチンに入ることだったはずだ。桔梗との結婚もなくなったし、本人もこう言っている。残念ながら、あなたたちを傘下に加えることはできない」
「そんな……! ご慈悲を……! ご慈悲をお願いいたします……!」
「それでは、私たちのホテルは潰れてしまいます……!」
両親は必死に食い下がりますが、愛甲社長が頷くことはありませんでした。
……それを察した父と母の怒り、そして悲しみの矛先が僕に向きます。
「晴久、お願いだからうちにいてちょうだい……!」
「そうだ! お前が戻ってくれば全て上手くいくんだ……!!」
……僕は、両親のこの気持ちをしっかりと受け止めなければなりません。
僕のせいで、ホテルは父の代でなくなってしまうかもしれないんですから。
……でも、二人の考えをいくら聞いても僕の意思が揺らぐことはありません。
僕はお腹に力を入れると、いつもよりも大きな声で話し始めました――――――――――。