自分で考える頭も、何かを感じる心も、自分の意思で歩く足もあるんだ
「愛甲さん、震えていますが大丈夫ですか?」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。その、少し緊張しておりまして……」
「……僕もです。でも、大丈夫ですよ。きっと上手くいきます」
「……そうですわね。私、頑張ります……!」
パーティー当日の午後二時五十分、僕は愛甲ホテルの一室にいました。
隣には振袖を着た愛甲さんがおり、僕も和服に身を包んでいます。
……愛甲さんと天川さんの選択は、逃げずに話をすることでした。
このパーティーには、大勢の来賓がいらっしゃっています。
その方々の前で、堂々と自分の気持ちを話すことにしたんです。
この状況ならば、愛甲社長も天川社長も聞かざるを得ませんから。
僕も、この場を借りて自分の意思をしっかりと両親に伝えるつもりです。
午前中に両親のホテルをチェックアウトした透花さんと天川さんは、招待客に紛れて既にパーティー会場に入っているという連絡が先程来ました。
まずはみなさんに、僕たちは結婚の意思がないということを発表します。
そして天川さんも壇上に上がり、それぞれの家族に気持ちを伝える予定です。
……今回のことで、色々な方面に迷惑がかかることは分かっています。
だけど僕たちは、敷いたレールを歩かされるだけの操り人形じゃない。
自分で考える頭も、何かを感じる心も、自分の意思で歩く足もある人間です。
……そのことを、どうしても両親に分かってほしいと強く願います。
「お二人とも、準備はよろしいですか? そろそろ開宴時間になります」
「……はい。愛甲さん、行きましょう」
「……ええ。私、負けませんわ」
スタッフの方の声に、僕と愛甲さんは頷きます。
大きく深呼吸をしてから、僕たちを否定するであろうものたちが待ち受ける扉の奥へと足を踏み出したのでした――――――――――。