邪道ではなく正道で
透花さんは、コテージを出ると柊平さんの車の後部座席に乗り込みます。
それに続くように透花さんの隣に座ると、車が動き出しました。
「柊平さん、お願いします」
「かしこまりました」
愛甲さんと天川さんを二人きりにするために、ここを離れるみたいですね。
「ふー、やっとすっきりしたよ。あのメイク、なんとなく息苦しかったから」
「……そうです! 僕、とってもびっくりしました。まさか変装して来るとは思っていなかったので……。あの変装で監視の目を抜けてきたんですか?
「うーん、それは少し違うかな。湊人くんからどこまで聞いている?」
「透花さんが、架空の令嬢になりすまして天川さんと接触したことは聞きました。天川さんも愛甲さんのことを想っていて、こちらの計画に乗り気だということもです。あとは、二人が両親のホテルを訪ねるので待機していてくれと……」
「なるほど。どうやってここまで来たかの過程がすっぽり抜けているのか。じゃあ、順番に説明するね。まず、今回の計画を成功させるために天川さんには私のことを気に入った演技をしてもらったの。今までどんな人とお見合いをしても靡かなかった息子が首を縦に振ったから、天川社長はすごく喜んで。冷静に考えると急過ぎるんだけど、婚前旅行に行きたいって話をしたら快諾してくれたの」
「な、なるほど……。そんな経緯があったんですね」
「うん。それで、有名な温泉地の旅館の予約を取ったんだ。初めての旅行だから二人きりで行きたいってお願いしたら、これもオーケーしてもらえてね。だから、監視の目を気にせずに堂々と出掛けることができたの」
「鮮やかすぎます……!」
「確かに監視はされていなかったけど、念には念を入れようってことで途中の駅で湊人くんと颯くんと合流する約束をしていたんだ」
「その時に、さっきみたいな化粧をしてもらったんですね」
「うん。この辺りの人は私と天川さんの顔を知らないとは思ったのだけれど、一応ね。それで、湊人くんに調べてもらったら天川さんにGPSがつけられていて。それを弄って、湊人くんの動きに反応するようにしてもらったんだ」
「じゃあ、そのままこちらに来ていたら危なかったんですね……!」
「そんなこともあろうかと、湊人くんを呼んでおいたの。今、湊人くんと颯くんは私と天川さんの代わりに高級旅館に泊まっているよ。今回の件で色々とお世話になったから、臨時ボーナスって感じかな」
「帰ったらお礼を言わないといけませんね。柊平さんもありがとうございます」
「……気にするな。私は、隊長から要請があったので動いただけだ」
柊平さんは進行方向を見据えたまま、そう言います。
「……ハルくん、あんなギャルメイクでもすぐに私だって分かってくれたよね」
「はい。でも、香水がいつもと違うものだったらすぐには気付けなかったかもしれません。サングラスを下げて話しかけてくれたところで確信を持てました」
「一応私だって分かるポイントを残しておきたいなと思って、いつもと同じ香水を選んだんだ。気付いてくれてありがとう。ハルくんが愛甲さんに声をかけてくれなかったら、彼女をあそこから動かせなかったかもしれないし。天川さんには、ボロが出ないようにあまり喋らないでってお願いしていたからさ」
「だから、見た目の割に大人しいギャル男だったんですね」
「ふふふ、そうなんです」
僕たちが話している間に、車はどんどん進んでいきます。
気付くと、あっという間に市街地まで戻ってきていたのでした――――――――――。