邂逅
しばらく歩いていると、体の感覚が元に戻るのを感じる。
心は昔から、不思議な体質の持ち主だった。
動物の言葉を理解し会話ができるだけではない。
怪我をしても、その治りが常人よりも圧倒的に早いのだ。
(……便利な体だなぁ)
今回もそのおかげか、あっという間に麻酔が抜けたようだ。
あれから森への侵入者たちと出くわすことはなかったものの、アルジャンアルパガを見つけることもできなかった。
(……そろそろ日が暮れてくるから、その前に見つけたい。お腹も空いたし……)
心は手持ちの荷物から蜂蜜が入った瓶を取り出すと、それを口に含む。
それは、彼が非常食としていつも持ち歩いているものだった。
二口、三口と進めていると、蜂蜜の甘い香りに混ざって、全く知らない匂いが自分の鼻に届いていることに気付く。
常人よりも嗅覚が優れているというのも、彼の体質の一つだ。
(嗅いだことのない、動物の匂いだ……)
先程までは距離が遠すぎて、匂いを感知することができなかったのだろう。
蜂蜜を鞄に仕舞うと、心は進んでいく。
歩く度に濃くなるその匂いに、彼は確信した。
この先に、アルジャンアルパガがいると。
(いた……)
十分ほど歩いたところで、心は発見する。
自慢の銀色の毛並みは土に塗れてしまっているが、間違いないだろう。
想像よりもずっと小さなそのアルパカは体を震わせながら、恐怖に満ちた目で心を見つめていた――――――――――。