見慣れぬカップル
僕と愛甲さんは、時間に余裕を持たせてホテルに戻りました。
エントランスやラウンジ、駐車場まで探しましたが二人は見つかりません。
「まだ来ていないみたいですね」
「はい。……それにしても、どうしてこちらで落ち合うことを一色様は提案されたのでしょうか? 晴久様のご両親に見つかったら大変なことになると思うのですが……。先程の喫茶店など、外で会う方が安全ではありませんか?」
「……それは難しいかもしれませんね。外だと、他人の目がありますから。僕たちは、ここ数日を二人で過ごしているところを様々な人に見られています。婚約しているということも、既にこの辺りでは知れ渡っていることでしょう。そんな二人が謎の男女と会っているところを目撃した人は、不思議に思うかもしれません。この話が、僕の両親や愛甲さんのお父さんの耳に入ってしまったら……」
「そ、それは大変ですわ……! その二人は誰なのか、なぜ話をしていたのかなど、根掘り葉掘り聞かれてしまうかもしれませんもの……!」
「そうなんです。……僕は、何かを誤魔化すという行為が得意ではありません」
「私もですわ……! 挙動不審になってお父様に怪しまれてしまいます……!」
「だからきっと、外で会うのは避けたんだと思います。うちの両親や従業員たちは、透花さんと天川さんの顔を知りません。今日は宿泊客もいないので、他人に見られるリスクが一番低かったのがここだったのではないでしょうか」
「なるほど……。私たちと潤哉様たちが会話をしてもおかしくない状況さえ作り出せれば、こそこそ隠れずとも堂々とお話ができるというわけですわね」
「はい。……フロントにいる父に不信感を抱かせずにその状況に持っていく方法は、僕には思い付きません。でも、安心してください。透花さんはとても頼りになる人ですから。愛甲さんと天川さんが話す時間を、絶対に作ってくれますよ」
「……はい! 潤哉様はもちろんですが、晴久様がそこまで信頼を寄せている一色様とお会いできるのもとても楽しみなんです!」
愛甲さんが、そう言った時のことでした。
時計の針は、透花さんたちとの約束の時刻ちょうどを指しています。
エントランスの扉が開き、男女の二人組が入ってきました。
透花さんと天川さんに違いないと思い、そちらを見たのですが……。
「キレーなホテルじゃん! ねっ、ここにしよーよ!」
「お、おう……」
……ああいう方たちのことを、ギャルとギャル男と呼ぶのでしょうか?
そこにいたのは、髪を明るい茶色に染めた、派手な身なりの男性と女性だったんです――――――――――。