万に一つもない
それは、突然の報せでした。
「突然ですが、天川潤哉が明日そちらに行きます」
「えっ……!?」
「ちゃんと父親の許可も得ているし、誘拐とかじゃないんで安心してください。警護の者の代わりに透花さんが一緒に行きます。いやー、苦労しましたよ」
「と、透花さんと二人でですか……!? 一体、どういうことなんでしょう……」
湊人くんの言葉に、僕は驚いてばかりです。
正直、頭の整理が追い付きません……。
「結果だけ伝えてもそうなりますよね。じゃあ、順を追って説明します」
「よろしくお願いします……」
「まず、僕はどうにかして天川潤哉とコンタクトを取ろうとしました。だけど、悔しいことにこれが無理だったんですよね。まあ、通信機を取り上げられてるんでしょうがないんですけど。だから、直接会いに行くことにしたんです」
「直接ですか!? でも、お見合いの時しか外出できないんですよね……?」
「はい。だからこう、素晴らしい家柄の架空の令嬢を作り上げましてね。そうしたら予想通り相手方が食い付いてきたので、堂々とお見合い相手として会うことに成功しました。あっ、令嬢役はもちろん透花さんですよ」
「と、透花さんが……!? そんなことして大丈夫なんですか……!?」
「平気ですよ。証拠を残すようなヘマを僕がするわけないじゃないですか」
「確かに、湊人くんなら可能だと思いますが……」
「安心してください。彼らが架空の令嬢について調べて、僕や透花さんまで辿り着くということは万に一つもありません。話を続けますね。二人きりの時に愛甲桔梗の話題を出したら、天川潤哉の目の色が変わったそうですよ」
「天川さんは、愛甲さんを未だに想っているということですよね……!?」
「まあ、そうなりますね。ですのでこちらの身元を明かして、愛甲桔梗に会いに行くためのプランを提示しました。天川潤哉はすぐにそれに乗ってきましたよ。ただ、日程の調整が難航してこんなギリギリになっちゃいましたけど」
「いえ、本当にありがとうございます! こんなことになっているなんて全然知らなかったので、とても驚きました」
「もしこの令嬢作戦が失敗したら別の策を考えなきゃなりませんでしたので。確実に成功するとは限らない計画を話すのは、僕の信条に反しますから」
湊人くんはこう言ってますが、きっと僕たちに気を遣ってくれたんでしょう。
もし作戦を聞いていてそれが失敗したら、ぬか喜びで終わってしまいます。
「明日は、愛甲桔梗と二人でホテルに待機していてください。透花さんが、必ず天川潤哉をそちらに連れて行きます。くれぐれも、ご両親には気付かれないようにお願いしますよ。誰かにバレたら、この計画はおしまいですから」
「……はい。肝に命じておきますね」
湊人さんとの連絡を終えると、僕はベッドに横になりました。
そして、現状が大きく変わるであろう明日に向けて、いつもよりも早めに眠りに就いたのでした――――――――――。