誰にでも、戦わねばならない時がある
翌日、僕を訪ねてくれた愛甲さんに昨日の内容を伝えました。
「……というわけで、天川さんは軟禁に近い状態のようです」
「まさか、天川社長がそこまでなさるなんて……!」
「外部との通信手段も全て取り上げられ、その……」
「晴久様、いかがいたしましたか?」
「……この先は、愛甲さんにとって辛い話かもしれません」
「……ありがとうございます。でも、大丈夫ですわ。私、昨日決めましたから。何があっても、潤哉様と自分を信じるって。だから、遠慮せずに仰ってください」
「……わかりました。天川さんは、社長に命じられ頻繁にお見合いをしているようです。……それが、彼が唯一外出を許されている時間だと聞きました」
「そう、なのですか……」
愛甲さんは俯いてしまいましたが、それはほんの一瞬のことでした。
すぐに顔を上げて、ぎこちない微笑みを僕に見せてくれます。
「……晴久様のお話を聞いて、少しでも落ち込んだ自分が恥ずかしいですわ。私は潤哉様と連絡を取ることも諦め、晴久様との結婚を受け入れようとしました。……彼の気持ちを先に裏切ったのは、私の方でございます。潤哉様の方が、何倍も深く傷付いたはずです。……私には、落ち込む資格なんてありません」
「……天川さんは、どんな女性が相手でも絶対に首を縦に振らないそうです」
「潤哉様が……?」
「はい。彼も戦っているんだと思います。あなたとの未来のために」
「そう、なのですね……。そうなのですね……!」
泣き出してしまった愛甲さんに、僕はハンカチを差し出しました。
彼女はそれを受け取ると、丁寧な動作で涙を拭います。
「……晴久様、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらないでください。とりあえず、昨日の時点ではここまでしかわかっていません。僕の仲間が、どうにかして天川さんとコンタクトを取ろうと頑張ってくれています。よい報せを、二人で待ちましょう」
「はい……!」
この日から、僕と愛甲さんは一緒に過ごすことが増えました。
気丈に振る舞ってはいますが、きっと不安でいっぱいでしょうから。
僕と愛甲さんが仲良くしているのを、両親は満足そうに見ています。
……婚約者として、仲が深まっていると思っているんでしょうね。
僕たちが関与できないところで、婚約お披露目パーティーの話はどんどん進んでいきました。
そしてパーティーを三日後に控えた夜に、湊人くんから再び連絡があったのでした――――――――――。