レールをぶち壊せ!
「……私と潤哉様が出逢ったのは、幼い頃のパーティーでした。その頃は、お互いのグループにそこまでのライバル意識というものはなく、切磋琢磨しながらホテルの規模を拡大していました。潤哉様との交流にも制限などありませんでしたので、私たちは次第に惹かれ、愛し合うようになりました。ですが、グループが大きくなるにつれて関係性は悪化していったのです。それでも隠れて逢瀬を重ねていましたが、少し前に私たちの関係がお父様の耳に入ってしまったようで……。すぐに今回の結婚が決まったのです。私に天川グループの後継者と結ばれては困りますから、その前に手を打ったのでしょう」
「……そうだったのですね。それは、さぞかしお辛かったでしょう」
「……そうですわね。しばらくは泣いて暮らしていました。……ですが私は、愛甲グループの娘としてこの世に生を受けた身です。これも自分の運命だと思い、晴久様との結婚について考えるようになりました。……晴久様がとてもお優しそうな方で、この方との未来も考えられると思ったのは嘘ではありません」
「ありがとうございます。ですが僕は、本当に愛する方との愛を貫いてほしいです。僕も、結婚はそういう人としたいですから。彼と連絡は取れないのですか?」
「……連絡のための通信機器は、全てお父様に取り上げられてしまいました。外出も制限されているので、こちらに赴く以外は許されていないんです」
「そうなんですか……。天川さんは、今回のことをご存知なのでしょうか?」
「……愛甲グループの娘が結婚するのです。ライバルグループの御曹司である彼の耳にも、きっと届いていると思いますわ。……最初は、少しだけ期待していたんですよ。潤哉様が、この結婚をどうにかして止めてくれないかって。……でも、そんなことは起こりませんでした。ふふふ、私ってば夢見がちですよね」
「そんなことはありませんよ」
僕は、できるだけ柔らかく彼女に笑いかけます。
いつも、透花さんがそうして僕を安心させてくれるみたいに。
「きっと、天川さんも同じなんだと思います。連絡も取りたいし、直接会いに行きたいけれど、その手段を封じられてしまっているんじゃないでしょうか」
「そう、なのでしょうか……?」
「僕に任せてもらえませんか?」
「え……?」
「なんとかして天川さんと連絡を取って、愛甲さんと会えるようにします。お二人の未来のことを、そこでゆっくりと話し合ってみてください」
「でも、そんなことができるはずが……!」
「確かに、僕一人の力ではできません。でも、僕には力強い仲間がいますから。彼らの力を借りれば、不可能なことなんてないって思うんですよ」
僕が微笑みかけると、愛甲さんの瞳から涙が零れ落ちました。
誰かを想って流れたその雫には、温かさが宿っているように僕には思えたのでした――――――――――。