表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十話
655/780

苦手だったのに、見たくないなんて

「お義父様、失礼いたします」

「桔梗様、よくぞいらしてくださいました。丁度、晴久が戻ったところです」

「嫌ですわ、お義父様。私たち、もうすぐ家族になりますのよ。いつまで私のことを様づけでお呼びになるおつもりなのかしら。桔梗と呼んでくださいませ」

「愛甲グループの御息女を呼び捨てにするなど、とても私にはできません」

「ふふふ、今は良いですけれど、結婚式当日までにはお願いいたしますね」

「はい。ご期待に添えるように精進いたします」


 僕は、父と着物の女性の会話をぼーっと見つめていました。

 ……誰に対しても横暴だった父が、こんなに下手に出ているなんて。

 怒鳴ることで、何でも自分の思い通りになると思っている父が苦手でした。

 ……それなのに、こんな父を見たくないと感じるのはなぜなんでしょう。


「晴久、桔梗様をどこか景色のよい場所にでも案内してさしあげろ。もうすぐ、日の入りの時間だろう。二人で美しい夕日を見て、親睦を深めてくるんだ」

「まあ、私、夕日って大好きですの! 晴久様、案内していただけるかしら」

「……待ってください。僕はまだ、父との話を終えていません」

「お前は、女性に恥をかかせる気か。いいから行くんだ」

「晴久様、参りましょう。お話なんて、また今度でよろしいじゃありませんか」

「いえ、僕は……!」


 父に背中を押され、愛甲さんに手を引かれ、僕は部屋を出てしまいました。


(やっぱり、そう簡単にはいきませんよね……)


 小さくため息を吐いた僕を、愛甲さんは上品な笑顔で見ています。


「晴久様、どちらに連れていってくださるのかしら?」


 その笑顔には含みはなく、本当に夕日を楽しみにしているだけに見えます。


(愛甲グループの娘さんということで勝手に高飛車なイメージを持っていましたが、悪い人には見えないですね。このままここにいても仕方ありませんし……)


 僕は彼女に不快感を与えないように、ゆっくりと手を離します。


「夕日がとても綺麗に見える場所があるんです。そちらにご案内しますね」

「ありがとうございます。楽しみですわ!」


 僕は彼女の歩幅を気にかけながら、とある場所に向かったのでした。

 “今の僕”の出発点と言っても過言ではない、あの崖に――――――――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ