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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十話
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必ず戻る、この場所に

「……というわけなんです。今日、一度実家に戻ります」

「わかった。……ハルくんのおうち、大変なことになっていたんだね」

「はい。息子の僕も、今日まで知りませんでしたが」


 ……事情を説明する内に、僕の表情は曇っていったのでしょう。

 透花さんは心配そうな顔で、静かに口を開きました。


「よかったら、私も一緒に着いていこうか?」

「え……?」

「上司として、ハルくんの働きぶりをお父さんに話すことくらいはできるよ。話を聞いてもらうってことが、そもそもかなり難しいのもしれないけど……」

「でも、透花さんにはお仕事が……」

「そんなのどうにでもなるよ。私には、仕事よりもハルくんの方が大切だから」


 ……確かに、透花さんが隣にいてくれればとても心強いです。

 父の前で、堂々と話をすることだってできるかもしれません。

 ……でも今回は、自分の力で解決しなきゃならない気がするんです。

 そうしなければ、僕はいつまで経っても半人前のままなんでしょう。

 ……きっと、目の前の美しい人に男として見てもらうこともできない。


「……ありがとうございます。透花さんのお気持ちはとても嬉しいです。でも、僕一人で大丈夫ですよ。きちんと父と話をして、ここに戻ってきます」

「……そっか、わかった。何かあったら、いつでも連絡してね」


 僕が自分の決意を口にすると、それ以上透花さんは何も言いませんでした。

 ここで僕は、透花さんに伝え忘れていることを思い出しました。


「あっ、そうです! 応接室のカーペットのことなんですが……」

「カーペットがどうかしたの?」

「先程、紅茶を零してしまいまして……。これからさっと綺麗にしていくつもりなんですが、完璧にシミを落とすまではできないと思うんです。……その、帰ったら僕が洗濯しますので、そのままにしておいてもらえますか?」


 ……これは、僕の覚悟の表れでもあるんです。

 僕は、絶対にこの場所に戻ってきます。


「わかった。代わりに洗ったり、新しいものに変えたりしないから」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

「ハルくん、いってらっしゃい。気を付けて」

「……はい! いってきます!」


 透花さんの笑顔に応えるように、僕も笑って部屋を出ました。

 自室でほんの少しの荷物を纏めると、掃除用具置き場へと向かいます。

 応接室に戻りカーペットの汚れを拭き取ってから、母と一緒に実家へと向かったのでした――――――――――。

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