優しい甘さは、まるであなたのよう
⑪午後九時、自室にて
「ハルくん、こんばんは」
「こんばんは、透花さん。あの、お夕飯とても美味しかったです」
「ありがとう。ハルくんに言われると自信がつくよ」
「特に、メインのお肉がさっぱりしてるのにジューシーで美味しかったです。いつもお肉はあまり食べれないのに、あっという間に食べてしまいました。よかったら、今度レシピを教えてもらえませんか?」
「もちろん。ハルくんがアレンジしたら、もっと美味しい料理になると思うよ」
透花が次に向かったのは、晴久の部屋だ。
透花は、黄色のリボンがかかった箱を晴久に渡す。
「はい、どうぞ。お菓子も美味しいって思ってもらえるといいのだけれど」
「ありがとうございます。透花さんの作るものは、いつも美味しいですよ」
箱を受け取った晴久は、丁寧な仕草で箱を開ける。
そこには、二色の生チョコレートが並んでいた。
「わあ! とってもいい香りがします。普通の生チョコじゃないですね」
「うん。食べたら何味かわかると思うよ」
「では、お言葉に甘えていただきます。まずはこっちから……」
晴久は、黄色い方をつまむと口に入れた。
優しい甘さが、ホロホロと口の中で溶けていく。
「きなこ味ですね。優しくて、僕が大好きな味です」
「気に入ってもらえてよかったよ」
「こっちも、いただいてもいいですか?」
「もちろん。そっちも自信作だよ」
今度は、茶色と黒の中間のような色の方を食べてみる。
香ばしく、どこかホッとする香りが晴久の鼻を抜けていった。
「こっちはほうじ茶味ですね。すっきりしていて、とても美味しいです」
「普通のよりも、こういう和風の方がハルくん好きかなって」
「ありがとうございます。残ったものは明日、煎茶と一緒にいただきますね」
「いいね。紅茶よりも合いそう」
ひとしきり会話をすると、透花は部屋を出て行った。
(どのお茶を淹れましょう。抹茶もいいですし、確かこの間いただいた玉露もありましたよね。案外、玄米茶なんかも合うんじゃないでしょうか)
自分の手の中にある箱を見ながら、どのお茶を淹れようか迷う。
そんな晴久の表情は、チョコレートのように甘く優しいものだった――――――――――。