オシャレな君に、オシャレなチョコを
⑩午後八時三十分、自室にて
「颯くん、こんばんは」
「こんばんはっす! 夕飯、ごちそうさまでした!」
「いえいえ、お粗末様でした。はい、これどうぞ」
「あざっす!」
透花が次に向かったのは、颯の部屋だった。
黒いリボンを解いて箱を開けると、トリュフがいくつも並んでいる。
繊細な装飾が施されたそれは、店頭に並んでいてもおかしくない出来だ。
「すげー! めちゃくちゃオシャレっすね! これ、手作りっすか!?」
「うん。オシャレな颯くんにはオシャレなチョコを食べてもらいたいと思って、少し張り切っちゃいました。牛乳が入ってるから、カルシウムもたっぷりだよ」
「そんなとこまで気遣ってもらって、あざまっす!」
ニコニコと嬉しそうに笑っていた颯が、突然困ったような表情になる。
箱の上で手を彷徨わせながら、何かを迷っているようだ。
「颯くん、どうしたの?」
「こんな時間にチョコを食うのは、俺のポリシーに反するんすよ! 太りそうだし、ニキビができるのも嫌だし……。でも、すげーうまそうだから食いたい!」
「まだ若いんだから、そんなこと気にしないでいいんじゃないかな」
「若いからこそ、思春期だからこそ気になるんす!」
「そうなの? 心くんは今頃、何も気にせずにケーキを食べてると思うよ」
「あいつは特別っすよ! 食っても食っても太んねーし! 何にもケアとかしてないのに、肌とか超キレイだし! ずるいっす!」
「心くんは、いっぱい食べるっていうのが健康の秘訣だからね」
「うー……。じゃあ、一個だけ! 一個だけ食います! 残りは明日!」
「はい、どうぞ召し上がれ」
颯はトリュフを一つつまむと、口の中に入れた。
その途端、なんとも幸せそうな顔になる。
「ん~! とろける! めちゃくちゃうまいっす!」
「美味しいって言ってもらえて、私も嬉しいよ」
「残りは明日食います! こんなにオシャレでうまいもんくれて、あざっす!」
「どういたしまして」
透花が部屋を出て行くと、颯はチョコレートの入った箱を机に置いた。
それを見ていると、もっと食べたいという欲求が湧き上がってくる。
(ダメだ! 今日はもう食わねえ! 歯磨きする!)
歯を磨いてしまえば、この欲求も抑えられるだろう。
そう考えた颯は、次のチョコレートを食べてしまう前に急いで洗面所へと向かったのだった――――――――――。