一番星を見ながら
蒼一朗と恵輔は、皆の最後尾をゆっくりと歩いていた。
背中には、疲れて眠ってしまった弟たちの姿がある。
「二人ともよく眠ってるね。あれだけ動けば当然か」
「そうっすね」
「そういえば、柏木くんが勝ちたい相手って君のところの隊長さんだろう?」
「……なんでわかったんすか?」
「着ぐるみなのに、あんなに速く走れる人はそうはいないからね。すぐにわかったよ」
「あの走り、やっぱり全然知らない人から見てもすごいっすよね」
「うん! 僕びっくりしちゃった!」
そう言うと恵輔は、いつものように朗らかに笑う。
蒼一朗は、先程から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「あの、部長」
「なんだい?」
「さっきのレース、なんで俺のこと追いかけて来たんすか? 部長の位置からじゃばあさんの様子は見えなかっただろうし」
「うん、見えなかったね」
「じゃあ、俺のことなんて気にせずにゴールすれば……」
「うーん、正直自分でもよくわからないんだよね!」
「……は?」
さっぱりと言い切った恵輔に、蒼一朗は驚きを隠せない。
「柏木くんが、理由もなしに僕との勝負を放棄するわけがないって思ってさ。気付いたら体が追いかけてた! あの時は本能で動いただけだったけど、結果的におばあさんを助けることができたから追いかけてよかったと思ってるよ。優勝を逃したのは残念だけどね」
「……なんつーか、部長らしいっすね」
「そうかな? 弟たちも仲良くなれたみたいだし、終わりよければ全てよしだよね!」
「……そうっすね」
「そういえば、美海ちゃんってかわいい子だね。隼輔が好きになるのもわかるよ」
「まあ、美海はかわいいっすよね」
「実際、大和くんと美海ちゃんって両想いだったりするの?」
「いや、仲はいいけどあくまでも家族って感じじゃないですかね。一緒に暮らしてるんで」
「やっぱり隼輔の独り相撲だったか……。話を聞いた時からそんな気はしてたんだよね」
二人は、弟たちの寝息をBGMに帰り道を辿る。
空にはいつの間にか、一番星が輝いていた。