お腹と心を満たす甘さ
⑨午後八時、自室にて
「心くん、こんばんは」
「透花さん、いらっしゃい……。ご飯、すごくおいしかった……」
「それならよかった。心くん、いっぱい食べてくれたもんね」
その夜、一色邸では透花による豪勢な食事が振る舞われた。
それぞれに別の物を作ったため、お菓子は部屋に届けるようにしたのだ。
透花が来るのを、心は今か今かと待ちわびていたらしい。
「はい、これどうぞ」
「ありがとう……」
透花が心に渡したのは、白い大きな箱だった。
淡いピンク色のリボンを解き、心は蓋を開ける。
その途端に、彼の目がキラキラと輝き始めた。
「すごい……。大きい……」
箱の中に入っていたのは、ガトーショコラだった。
直径が三十センチメートルほどあり、一人で食べるには明らかに大き過ぎる。
「蜂蜜がたっぷり入ったガトーショコラだよ」
「はちみつ……」
「心くんにはたくさん食べて欲しいと思ったから、大きいのを作ったんだ」
「ありがとう……。嬉しい……」
心はそう言うと、柔らかな笑顔を透花に見せた。
父親との一件があってから、彼は少しずつ笑うようになってきているのだ。
「喜んでもらえてよかった。すぐに食べられるようにフォークも持ってきたから、渡しておくね。じゃあ、心ゆくまで楽しんで!」
「うん……。ほんとに、ありがとう……」
「どういたしまして」
透花が部屋を出て行くと、心は早速それを口へと運ぶ。
(すごく、おいしい……。毎日、食べたいなぁ……)
蜂蜜とチョコレートの優しい甘さが、彼の心とお腹を満たしていくのだった――――――――――。