色恋沙汰には鈍感なのです。
⑤午後四時半、一色邸にて
――――――――――ピンポーン。
屋敷の中に、来客を告げるベルが鳴り響く。
湊人が扉を開けると、そこには見覚えのある少女が立っていた。
「こ、こんにちは!」
「やあ、こんにちは。君は確か学童クラブで会った子だよね」
「は、はい! 入江香澄っていいます!」
「香澄ちゃん、大和くんか美海ちゃんに用事かな?」
「い、いえ、その……! 今日はみなとさんにわたしたいものがあって……!」
「僕?」
「はい……! このあいだはたすけてくれてありがとうございました……!!」
香澄はそう言うと、紫色のリボンが結ばれた透明な袋を取り出した。
中には、小さなチョコレートタルトがいくつか入っているようだ。
子どもらしく、カラースプレーやアラザンでカラフルに彩られている。
一週間ほど前に香澄は一色邸を訪れ、晴久からお菓子作りを教わった。
自宅で練習を重ね、自らの力のみでこのタルトを完成させたのだ。
その証拠に、香澄の小さな手にはいくつもの絆創膏が張られている。
(最近の子どもって、随分律儀なんだなぁ)
少女の恋心など知る由もない湊人は、笑顔でそれを受け取った。
「わざわざありがとう。嬉しいよ」
「い、いえ……! もらってくれてありがとうございます!」
「あれから、あの子には意地悪されてない?」
「はい、だいじょうぶです! みなとさんのおかげです!」
「ふふふ、それならよかった」
このような会話を交わした後に、香澄は満足げな表情で帰っていった。
湊人は自室に戻ると、早速その不格好なタルトを一つ頬張ってみる。
生クリームを入れ忘れたそれは、市販の物よりもかなり硬かった。
(硬いけど、まあ普通に美味しいかな)
味覚の幅が広い湊人は、特に硬さも気にならなかったようだ。
残りのタルトが半分になったところで、湊人は袋の口を閉じる。
(せっかく貰ったのに、一気に食べちゃったら勿体ないからね)
そしてそれを机の上に置くと、飲み物を求めてキッチンへと向かうのだった――――――――――。