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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十九話
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幸せで膨らんだ鞄

③午後三時三十分、公園にて


 虹太はこの日、公園でリサイタルを行っていた。

 大学は既に長い春休みに入っており、時間はたっぷりとあるのだ。

 この間の任務で音楽への想いを再確認した虹太は、暖かい日を見つけては出来るだけ外で演奏するようにしていた。

 平日の昼間だというのに、今日も大盛況である。

 老若男女問わず、たくさんの客が虹太の演奏のために集まってくれた。


「みんな、今日もありがとー☆ よいバレンタインを!」


 二十分ほどで、リサイタルは幕を閉じた。

 キーボードを片付けていると、女子高生三人組が虹太に声をかける。


「椎名さん、バレンタインだしこれあげる!」

「うちもうちも~! あっ、市販だから味の保障はされてるから!」

「うちら椎名さんのファンだから、いっつも演奏楽しみにしてるんだ~!」


 そう言うと、どこのスーパーでも売られているような小さなチョコレート菓子を虹太の掌に乗せた。

 どう見ても義理チョコだが、ファンからの差し入れは嬉しいものだ。

 虹太はそれを受け取ると、彼女たちに笑顔を見せた。


「わ~、ありがと♪ めっちゃ嬉しいよー!」

「お返しは、特別に椎名さんの演奏でいーよ☆」

「だから、ホワイトデーの日もここで演奏してよね!」

「うちら、彼氏もいなくて暇だしね~」

「おっけーおっけー☆ でも、その日までに彼氏できたらそっちを優先しな~」

「「「はーい!」」」


 女子高生たちが去ると、今度は一組の老夫婦が話しかけてきた。


「虹太くん、今日もいい演奏だったよ」

「寒いのに、まあよく頑張るわねえ」

「それはこっちのセリフだよー! 今日も来てくれてありがと☆ 二人とも、早く帰って家でゆっくりあったまって! 風邪ひいたら大変っしょ~!?」

「なあに、まだまだ若い者には負けんよ。毎朝、乾布摩擦もしてるしな」

「虹太ちゃんも、これでも飲んで温まってね。じゃあ、また来るわ」

「うん、気を付けて帰ってね~!」


 老婆がくれたココアの缶は、冷たくなり始めた虹太の指先を温める。

 その後も様々な観客が、ちょっとしたお菓子や飲み物を虹太に贈った。

 差し入れを貰うことはあったが、今日は目に見えてその量が多いようだ。

 いつも幸せな音楽を聴かせてくれる虹太に、感謝の気持ちを伝えたい。

 そう考えた観客たちからの贈り物が、虹太は嬉しくて仕方なかった。


(みんなの笑顔を近くで見れるこの距離が、やっぱり好きだな♪ だって俺は、自分の演奏でいろんな人に笑顔になってもらいたいんだもん! その笑顔をパワーにして、もっともっとがんばっちゃうぞーって思えるんだからさ!)


 片付けを終えると、虹太はキーボードと荷物を持って歩き出した。

 来た時はぺしゃんこだった彼の鞄は、今はたくさんの贈り物で膨らんでいる。

 それを時折愛おしそうに見つめながら、虹太は家路を辿るのだった――――――――――。

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