今、君に聞いてほしい話があるんだ。
ひとしきり話をすると、志摩くんは一足先に会場に戻っていった。
廊下で一人になった俺は、大きなため息をつきながら壁にもたれる。
行儀が悪いのはわかってるけど、そのままズルズルと座り込んじゃったんだ。
(……あはは、柄にもなく緊張してたみたい。そりゃそうだよね~。あんなに大人数の前で演奏したの、すっごい久しぶりだし。ちょっと休憩してから戻ろっと)
今になって緊張と疲労に襲われた俺は、ぼーっと天井を見つめる。
……そこには、何色かわからない天井があるだけだ。
「虹太くん、お疲れ様」
……俺は、ほとんど色なんてわかんないよ。
でもね、音楽と一色隊のみんなの存在が、この世界を輝かせてくれるんだ。
今、俺の目に映る透花さんはめちゃくちゃキラキラしてる。
「うん、ありがと~。勝手に休憩しちゃってごめんね」
「ううん、あれだけ気持ちのこもった演奏をしたんだもん。疲れていて当たり前だよ。私も少し休憩しようと思って、抜けてきちゃったんだ」
「そっか~。じゃあ一緒に休憩しよ~♪」
……なんとなくだけど、今なら俺の過去の話をできる気がした。
志摩くんのこと、手の怪我のこと、それからこの目のこと……。
目については知ってるって言ってたけど、俺から詳しい話をしたことはない。
透花さんは、いつか俺の口から聞かせてほしいって言ってた。
……根拠なんてないけど、それは今だって強く思うよ。
「……透花さん、聞いてほしい話があるんだ。聞いてくれる……?」
今は任務中だから、日を改めた方がいいのはわかってる。
でも俺は、今話したい、今聞いてほしいんだ。
「うん、もちろん。どうしたの?」
そんな俺に、透花さんは優しい笑顔を返してくれた。
俺がどんな人生を送ってきたのか、まずは君に話すよ。
その後に、ちゃんとみんなにも聞いてもらいたいって思うから。
「……ありがと~。あの、俺ね……」
俺の話を全部聞いたら、透花さんはどんな顔をするかな?
やっぱり、目のことをかわいそうって思う?
それとも、怪我をきっかけに音楽から離れてたことを悲しんでくれる?
……ううん、どっちも違う気がする。
きっと、話してくれてありがとうって言って優しい笑顔をくれるよね。
そんな近い未来を想像しながら、俺は口を開いた――――――――――。