舞台は変わっても、音楽を愛する気持ちは変わらないから。
俺が会場の外で一息ついてると、志摩くんがやって来た。
……いつもよりも真面目な顔してるし、俺に話がある感じかな?
「志摩くん、お疲れ~」
「どうして……!?」
「ん?」
「なんで、僕を庇うようなことをしたの……!? 僕のせいで、君はクラシック界の表舞台から姿を消さないといけなくなったのに……! 手の怪我だって、僕にやられたって告発できただろ……!?」
「……さっきも言ったけど、俺、今の自分がすっごい好きなんだよね」
自分の両手を見つめながら、俺はそう言った。
「確かに、手の怪我がなかったら俺は今頃若手のトップだったと思うよ。そこからしか見えない景色も、きっとキレーなものなんだろうね。でも、今の俺の目に映る景色も、それに負けないくらいキレーだから。俺にしか見えないものだから、わかってもらうのは難しいかもしれないけどさ」
志摩くんは俯いちゃってるから、どんな表情をしてるのかは読み取れない。
「それに俺、別に志摩くんのこと憎んだりしてないし。まあ、怪我をした直後はそういう気持ちになったことはぶっちゃけあったけどさ~。でも、そういう過去があって、今の俺がいるから。だから、志摩くんのせいとか思ってないよ」
俺の言葉を聞くと、志摩くんは勢いよく顔を上げた。
……泣くのを我慢してるのか、眉毛が下がって、唇は震えてる。
「椎名くん、あの時は本当にごめん……!」
そう言うと、せっかく上げた頭をまた下げてしまった。
「僕、あの時のことずっと後悔してた……! 謝りたいって思ったけど、椎名くんに会うことはあれ以来なくて……! だから、今日君の姿を見た時はすごく安心したんだ……! 自己満足だけど、やっと謝れるって……!!」
「……うん」
俺が苦しんでたように、志摩くんも苦しんでたんだ。
……これで、お互いに吹っ切れて自由になれるんだよね。
「志摩くん。俺がその世界に立つことはもうないけどさ、ずっと応援してるから。これからのクラシック界は、君が引っ張っていってよ」
「え……?」
「だって悔しいじゃん! 最近は明るいニュースがないとか言われてさ~!」
「でも、僕は……」
「……志摩くんなら絶対にできるよ。だって君は、俺のライバルだもん!」
「椎名くん……!」
俺の言葉を聞いて、志摩くんの目からは遂に涙が零れちゃった。
いつの間にか、俺の目頭まで熱くなってきて……。
「……志摩くん、泣かないでよ~」
「……そう言う椎名くんこそ」
「……くくっ、あはははは!」
「……ふふっ、あはははは!」
お互いの泣き顔を見ながら、俺たちは笑い合った。
しばらくの間、泣いたり笑ったり忙しかったんだよ――――――――――。