音楽は平和を運んでくれるんだ
「なんて素晴らしい演奏なんでしょう……!」
「ああ、とても幸福な時間だった……!」
突然の乱入者だった俺の演奏に、みんなは惜しみない拍手を送ってくれた。
いや~、心が広いお客さんが多くてよかったよ☆
さてさて、肝心のあの男の人はっと……。
「か、感動した……! まさに、天にも昇る気持ちだ……!!」
涙を流しながら、笑顔で拍手をしてくれてる。
この人が、本当に音楽を好きな人でよかった~。
変に意地を張られて、俺の演奏なんて認めないって言われたら困るしね。
「……先程は、色々と失礼なことを言ってしまった。儂の好みとは違うが、お前たちの演奏も確かに素晴らしいものなのだろう。数々の暴言を詫びさせてくれ」
男の人は、ピアニストたちに頭を下げて謝った。
うんうん、俺の演奏中に少し酔いがさめたみたいだね。
ピアニストたちへの謝罪の言葉も引き出せたし、大成功じゃーん☆
任務も完了したし、さっさと透花さんのところに戻りますかね~。
「……今の演奏をした者! 待ってくれ!」
ピアノを離れようとしたら、俺は例の先生に呼び止められちゃったんだ。
「弾く者の情熱が、聴く者の心を震わせる実に素晴らしい演奏だった!」
「あはは、ありがとうございます~」
「名は何と言う? あの腕前だ、さぞかし高名なピアニストなのだろう」
「いえいえ、俺はただの大学生ですよ~」
別に、名前を言うくらいならいいかもしれない。
……でもさ、この会場に、昔の俺を知ってる人がいるかもしれないじゃん?
最近のコンクールに出ない理由とか聞かれたら、ぶっちゃけめんどいよね~。
「……その顔、どこかで見たことがあると思ったんだ! 椎名虹太くんじゃないか! かつて神童と呼ばれ、数々のコンクールで優勝した天才少年……!」
そんなことを考えてたら、お客さんの一人から声が上がった。
……あらら、やっぱり俺のことを知ってる人がいたみたい。
さてさて、どうやってこの場を切り抜けますかねー……。