同郷のよしみってやつだよ
「こんなに人数がいるのに、誰一人としてジャズは弾けんのか!? リュミエール出身のピアニストといっても、大したことはないのう!!」
「はいは~い、ちょっと失礼しますね~」
俺は、未だに罵倒を続ける男の人に歩み寄った。
突然現れた俺に、すっごく驚いてるみたいだ。
「な、なんだお前は!?」
「先生、俺でよろしければ一曲弾かせていただきますよ」
「ふん! ピアニストでもなんでもない、ただの招待客が何を言っておる!」
「確かに今日はピアニストとして来たわけじゃないけど、俺も同郷なんです」
「ほう、リュミエール出身なのか!」
「はい。だから、みんながこんな風に言われるのを黙って見てられないな~って」
「そこまで言うなら弾いてみろ! お前みたいな軽薄な男に、儂を満足させられるような演奏が出来るとは思わんがな!」
「あはは。軽薄ってひどいなぁ。じゃあ、弾かせてもらいますね~」
男の人の言葉を適当に受け流すと、俺はピアノ椅子に座る。
今更だけど、手袋も包帯も取っちゃっていーんだよね?
透花さんから直々に、この場を治めるように言われてるし!
柊平さんに怒られそうになったら、透花さんに守ってもらおーっと♪
そんなことを考えながら、俺は両手の手袋を外す。
その瞬間、自分のすぐ後ろで息を呑むような声が聞こえたんだ。
振り返ってみると、志摩くんがびっくりした顔で俺の手を見てる。
(包帯に驚いたのかな~? ……あの時のケガなんて、とっくに治ってるよ)
俺は志摩くんから視線を逸らして、鍵盤と向かい合った。
シュルシュルと包帯を解いて、それを適当にポケットに突っ込む。
一呼吸置いてから、志摩くんが弾いたのとは別だけど、やっぱり誰もが知ってるような有名なジャズの曲を弾き始めたんだ――――――――――。