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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十八話
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メロディとリズム

 志摩くんは、つっかえることなく曲を弾いていく。

 確かに、キレイで丁寧な演奏だとは思うけど……。


(う~ん、これはジャズとは言えないんじゃないかなぁ……)


 クラシックとジャズの大きな違いって、メロディとリズムだと思うんだ。

 クラシックはメロディ重視で、ジャズはリズム重視なんだよね。

 まあ、もちろん両方とも大切なんだけどさ~。

 志摩くんの演奏は、ジャズの曲をクラシックとして弾いてるに過ぎない。

 ……ジャズ好きの人が、これで満足してくれるとは俺には思えないなぁ。

 志摩くんが弾き終わると、周囲から拍手が起こる。


「お前は儂を馬鹿にしておるのか!? こんなもんはジャズではないわい!」


 ……だけど、予想通りこの先生は納得してないみたい。

 う~ん、やっぱりそうなっちゃうよね。


「お前たちは、リュミエールの出身だったな!? 音楽の街だというのに、儂を満足させられるような曲を弾ける者は一人もおらんのか!?」

「先生、落ち着かれてください……!」

「ええい、うるさいわ! 名ばかりで実力が伴っていない小童どもに何を言おうが、儂の勝手じゃろう! リュミエールには碌なピアニストがおらん!」


 ……かっちーん。

 普段は温厚な俺でも、さすがにこの言葉にはキレちゃうよ?

 いくら偉い先生だからって、言っちゃダメなことってあるもん。

 彼らが毎日、どれくらい練習をしてるかなんて知らないくせに。

 その努力を全て否定するような言葉を、俺はどうしても許せなかった。

 ……手を怪我するまでは、俺も彼らと同じ舞台に立ってたからね。


「虹太くん、あそこを治めてきてくれないかな」


 隣にいた透花さんが、ふいに俺にそう言った。

 組んでた腕を解くと、ぽんと背中を教えてくれる。


「一色隊の隊長として、隊員のあなたにお願いしたいんだ」

「……おっけー! 任せて~! すぐに戻って来るからね☆」


 ……透花さんの手は俺から離れちゃったけど、大丈夫だ。

 俺は別に、迷子になったりしない。

 だって、俺の居場所はここにちゃーんとあるもんね。

 どんな事情があっても、受け入れてくれる仲間がいるんだから。


(……俺は、俺の音楽でみんなを幸せにしたい。それだけだよ)


 今、俺の頭の中にあるのはこれだけだ。

 俺はスッキリとした頭で、ピアノの方に向かったんだ――――――――――。

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