メロディとリズム
志摩くんは、つっかえることなく曲を弾いていく。
確かに、キレイで丁寧な演奏だとは思うけど……。
(う~ん、これはジャズとは言えないんじゃないかなぁ……)
クラシックとジャズの大きな違いって、メロディとリズムだと思うんだ。
クラシックはメロディ重視で、ジャズはリズム重視なんだよね。
まあ、もちろん両方とも大切なんだけどさ~。
志摩くんの演奏は、ジャズの曲をクラシックとして弾いてるに過ぎない。
……ジャズ好きの人が、これで満足してくれるとは俺には思えないなぁ。
志摩くんが弾き終わると、周囲から拍手が起こる。
「お前は儂を馬鹿にしておるのか!? こんなもんはジャズではないわい!」
……だけど、予想通りこの先生は納得してないみたい。
う~ん、やっぱりそうなっちゃうよね。
「お前たちは、リュミエールの出身だったな!? 音楽の街だというのに、儂を満足させられるような曲を弾ける者は一人もおらんのか!?」
「先生、落ち着かれてください……!」
「ええい、うるさいわ! 名ばかりで実力が伴っていない小童どもに何を言おうが、儂の勝手じゃろう! リュミエールには碌なピアニストがおらん!」
……かっちーん。
普段は温厚な俺でも、さすがにこの言葉にはキレちゃうよ?
いくら偉い先生だからって、言っちゃダメなことってあるもん。
彼らが毎日、どれくらい練習をしてるかなんて知らないくせに。
その努力を全て否定するような言葉を、俺はどうしても許せなかった。
……手を怪我するまでは、俺も彼らと同じ舞台に立ってたからね。
「虹太くん、あそこを治めてきてくれないかな」
隣にいた透花さんが、ふいに俺にそう言った。
組んでた腕を解くと、ぽんと背中を教えてくれる。
「一色隊の隊長として、隊員のあなたにお願いしたいんだ」
「……おっけー! 任せて~! すぐに戻って来るからね☆」
……透花さんの手は俺から離れちゃったけど、大丈夫だ。
俺は別に、迷子になったりしない。
だって、俺の居場所はここにちゃーんとあるもんね。
どんな事情があっても、受け入れてくれる仲間がいるんだから。
(……俺は、俺の音楽でみんなを幸せにしたい。それだけだよ)
今、俺の頭の中にあるのはこれだけだ。
俺はスッキリとした頭で、ピアノの方に向かったんだ――――――――――。




