人はそれを無茶ぶりと言うのです
「同じような曲ばかりでつまらんなあ」
パーティーも終盤に差し掛かった頃に、一人の男の人が大きな声で言った。
クラシックに馴染みがない人だと、どの曲も同じように聴こえるのかな?
あの人は確か、ジャズが大好きだったはずだし。
「儂はジャズが好きなんじゃ!」
「先生、お気持ちは分かりますがこの辺で……」
「ええい、うるさい! 誰か弾ける者はおらんのか!?」
顔も赤いし、多分酔っ払ってるんだろうな~。
秘書みたいな人が止めようとしたけど、無視しちゃってるし。
よほどのお偉いさんなのか、周りの人は見て見ぬ振りって感じだね。
ピアニストたちは、みんな困ってるみたいだ。
楽譜もない状態で、急にジャズを弾けって言われても難しいもんな~。
「……先生、僭越ながら私が弾かせていただきます」
……男の人にそう言ったのは、志摩くんだった。
志摩くんが、今日のピアニストたちのリーダーなのかもしれない。
みんな、リュミエール出身の音楽家だって紹介されてたし。
リュミエールっていうのは俺の地元で、音楽が盛んな都市なんだよね。
「おお! 弾ける者がおったか! 頼んだぞ!」
「……はい」
志摩くんは、緊張した表情で椅子に座る。
そして、誰もが知ってるような有名なジャズの曲を弾き始めたんだ――――――――――。