思わぬ再会
「……椎名くん、久しぶり」
透花さんがトイレに行くから、少しだけ離れてた時のことだった。
さすがに、トイレの中までついてくわけにもいかないからね~。
廊下で待ってると、誰かが俺に声をかけてきたんだ。
それは、思いもよらない人物で……。
「志摩、くん……」
なんで、俺が今日ここに来てるってわかったんだろう……?
それに、どうしてこんな人気がない場所で話しかけてきたの……?
……俺の脳裏には、一瞬であの時の光景が蘇った。
心臓が、うるさいくらいに鳴っているのがわかる。
警戒を解かずに、無理矢理笑顔を作って彼に答えたよ。
「久しぶりだね~。今日は演奏で来たんだよね?」
「あ、うん……。その、椎名くんは……?」
「俺も仕事でだよ~。それにしても、よく俺がここにいるってわかったね」
「ダンスの時、すごく目立ってたから……」
「え~、そんなに目立ってた? ふつーに踊ってただけなんだけどな~」
……なんとか会話を続けてはいるけど、正直気は進まないよね。
志摩くんが、どういう目的で俺に話しかけてきたのかわかんないし……。
「あの、僕、椎名くんに話したいことが……!」
「虹太くん、お待たせ。……あれ、お友達かな?」
志摩くんが何かを言いかけたのと、透花さんが戻ってきたのは同時だった。
「あ、じゃあ、僕はこれで……」
透花さんの顔を見ると、志摩くんは逃げるようにいなくなっちゃったんだ。
そんな彼を見送る俺は、ポカンしてたと思うよ。
「ごめん、邪魔しちゃった?」
「……ううん、そんなことないよ~。ちょうど話も終わったとこだったし!」
「それならよかった。じゃあ、残りの時間も頑張ろう!」
「お~!」
透花さんは、ごく自然な動作で俺と腕を組んだ。
……あんなにうるさかった心臓が、すっかり穏やかになってる。
……この手を離さなければ、大丈夫だ。
この手さえあれば、俺はいつでも”俺”を見失わないでいれる。
そんなことを考えながら、再び会場に足を踏み入れたんだ――――――――――。




