君の王子様になりたいんだ
俺と透花さんは、手を取り合いながらフロアに立った。
流れてきた音楽に合わせて、ゆっくりと体を動かす。
運動はからっきしダメな俺だけど、不思議だよね~。
子どもの頃に身に付いたことは、そう簡単に忘れないみたい。
自然と体が動いて、ちゃーんと女の人をリードできるんだよ。
ピアノも、数年離れてたけど今では普通に弾けるようになってるし。
俺って、実はものすごく器用なんじゃない!?
まあ、不器用なこととの振れ幅が大き過ぎるんだけどさ~。
踊っていると、ちょいちょい他のみんなが目に入る。
(透花さんのこと独り占めしちゃってごめんね。でも、今日は許して~!)
何人かからは鋭い視線を向けられてる気がするけど、そんなの無視無視!
だって今日は、俺が透花さんのエスコート役だもん!
これくらいさせてもらっても、罰は当たんないよね☆
「虹太くん、楽しいね」
「うん☆ すっごく楽しいよ~♪」
「前から思っていたけど、本当にダンスが上手だよね。初めて見た時は驚いたよ」
「ありがと~! 透花さんもとってもうまいよ☆ どこかのお姫様みたい!」
「私がお姫様だったら、虹太くんが王子様かな?」
「あはは、今日はそうだね~」
(ほんとは、今日だけじゃなくてずーっと王子様になれたらいいんだけど……)
透花さんとりっくんの間に、特別な何かがあるのは俺から見てもわかる。
その絆に、俺はまだ全然敵わないっていうのも。
(でも、現状に満足してる俺ではないのです!)
俺は俺のやり方で、これからも透花さんとの距離を縮めていきたいんだ。
りっくんにも他のみんなにも、負ける気なんてこれっぽっちもないからね!
俺たちはそれからも、会話を楽しみながらダンスを踊った。
……あまりにも楽しかったから、気付かなかったんだ。
フロアで踊る俺に向けられた、様々な感情が込められた視線に――――――――――。