お姫様に優しいキスを贈ろう
それからも俺は、一生懸命透花さんのことをエスコートしたよ。
任務を頑張ってる方が、いろいろ考えなくて済むしね~。
たまに、志摩くんの音が聴こえてきてドキッとすることはあったけど……。
さっきみたいな不意打ちじゃないから、なんとか我慢できたんだ。
「一色殿! ぜひ私にパートナーを務めさせてください!」
「いえいえ! ここは私が! 華麗な足捌きをお見せいたしますよ!」
「椎名様、私と一曲踊っていただけませんか?」
「あなたには婚約者がいらっしゃるでしょう! 私とご一緒しましょう!」
そんなこんなで、パーティーも中盤に差し掛かってきた。
これからダンスの時間なんだけど、俺たちはたくさんの人に囲まれてるよ。
透花さんは美人だから、これだけ申し込みがあるのも納得だよね~☆
俺が人気あるのは、年齢のおかげかな?
今日のお客さんは、中年以上の人が多いみたいだし。
それに、箱入りのお嬢様からしたら俺みたいなチャラ男は珍しいよね~。
年末のパーティーでは、断らずにいろんな女の子と踊ったけど……。
「ごめんね。俺、今日のパートナーは決めてるんだ」
女の子たちの誘いを断って、透花さんの手を取る。
……だって俺、あの時すっごく悔しかったんだもん。
自業自得だけど、透花さんのエスコート役を柊平さんに取られちゃってさ。
二人が並ぶと、美男美女って感じでほんとにお似合いだし!
それに俺、まだ透花さんとこういう場所で踊ったことない。
俺が自慢できるのって音楽とパーティーでの立ち居振る舞いだけなんだから、一番近くでカッコイイところ見せたいじゃん!
俺の気持ちが伝わったのか、透花さんは他の誘いを丁寧に断ってくれた。
「透花さん、俺と一緒に踊ってください」
俺は透花さんの柔らかい手の甲に軽くキスをしてから、そう言った。
「はい、喜んで」
透花さんはこの日一番の笑顔を浮かべると、嬉しい返事をくれたんだよ。