いつか見てみたいもの
俺はホットミルクを飲みながら、左手を颯くんに差し出してる。
颯くんはすっごい真剣な表情で、俺の爪に色を塗ってるよ~。
マニキュアじゃなくてジェルネイルってやつだから、時間がかかるんだよね。
……よくわかんないけど、濃い色だから多分黒かな?
せっかくやってもらっても、色の感想が言えないのは申し訳ないんだよな~。
「……お待たせしました! 完成っす!」
「おおー! すっごいかっこいいデザインじゃーん!」
「あざまっす! 黒を基調に虹太さんの好きなオレンジ色を混ぜながら、大人っぽさを意識してやってみました!」
……この言葉に、俺は引っかかるところがあったんだ。
「え? オレンジ?」
「あれ? オレンジ嫌いだったっすか!?」
「いや、そんなことはないけど……」
そもそも、それがどんな色なのかわかんないし……。
「オレンジ色の服をよく着てるから、てっきり好きなのかと思ってました!」
あっ、そういうことか……。
服はデザインで選んで着てるけど、オレンジ色が多かったんだ~。
「……うん☆ 大好きだよ~♪」
「やっぱりそうっすよね! 親しみやすい虹太さんにぴったりな色っすもん!」
俺にぴったりの色かぁ……。
いつか自分の目で見てみたいけど、多分無理なんだろうなあ……。
俺は後ろ向きな気持ちを押し込めて、笑顔を作る。
「ありがと~☆ めっちゃ気に入ったよ♪」
「こちらこそありがとうございました! よかったらまたやらせてください!」
「ピアノを弾く予定がない日があれば、ぜひぜひ~!」
こうして爪をキレーにしてもらった俺は、颯くんの部屋を出た。
部屋に戻ってから爪を見てみたけど、やっぱり色はわかんない。
このままでいると嫌なことを考えちゃいそうだから、俺はすぐにベッドに潜り込んだんだ――――――――――。